百八十年計画の教育改革。 命がけで国を守る人を育てるために

  • 2013年1月1日
  • 2020年12月26日
  • JO対談

全日本印刷工業組合連合会会長 六三印刷株式会社代表取締役会長 島村博之さ

江森:あけましておめでとうございます。新しい年を迎え、二〇一三年はどんな年になるとお考えですか。

島村:気学でいうと昨年は世界的にリーダーが変わった年で、来年はそれら新しいリーダーの下で全世界が新しい方向に動く年になると言われていますが、それはともかく、僕なりにどんな年になって欲しいかということをお話させていただきたいと思います。

 国家の役割は何かと考えると、何と言っても「国民の生命を守る」ということがあり、そのために食糧の確保、エネルギーの確保、領土の確保をしなければならないわけですが、残念ながら今の日本はこの3つとも弱い状態です。図らずもこの度の衆院選の争点になってしまった原発の問題ひとつとっても、未だこの国はエネルギーを確保する方法すら決まっていないのだということを露呈する結果となってしまいました。そのくせ選挙になると「原発イエスかノーか?」というような二者択一を迫ってくるのはまったくおかしい。次の首相は政権維持のためではなく、エネルギーを確保するためにはどうすれば良いのかを明確に打ち出して欲しいですし、領土、食糧の問題もしかりです。

江森:極めて本質的な指摘だと思いますが、なぜ政治の世界ではそういう議論ができないのでしょうか。

島村:なんでかねえ…(笑)。政治家が政権争いに溺れてしまっているということでしょうか。生活のため選挙に勝たねばならぬという視野の狭い政治家が増えてしまった気がします。

江森:いまや選挙はほとんど就職活動のようですからね(笑)

島村:本来政治家は自分の生活のことなど気にせず、命を賭けて国を守るんだという気概のある人じゃないと、国家の運営なんて託せませんよ。で、そもそも論になっちゃうけど、いつも江森さんも言っているように教育がなってないということに行き着くんですよ、結局。

 時代には大きな波があって衰退もあれば隆盛もあるわけですが、復活するには衰退時期の三倍の時間がかかるという歴史の法則があります。もう一度日本人に国とは何か、国家とは何かということを、きちんと認識させるような教育をしていかないと、エネルギーだろうが外交だろうがうまくいくはずがないのです。

江森:期せずして教育の話題になりましたので伺いたいのですが、今やバブルの頃のように、偏差値の高い学校に行って、名の知れた企業に入れば安心だなどということは幻であって、企業も偏差値だけ高いような人材を必要としていないにも関わらず、教育の現場では未だに三十年前と同じことをやっています。これはおかしなことだと思うのですが。

島村:それは親がわかっていないのだと思いますよ。教育とは何を教育することなのかということをね。僕はアメリカに留学していましたから、アメリカという国は好きなんですよ。日本の次に好きな国はと聞かれれば、迷わずアメリカと答えます。でも空襲にしても原爆投下にしても、アメリカが日本に対して行なった行為は絶対に許してはならないと思っています。アメリカが好きでこれからも同盟国としてうまくやっていきたいということと、戦争中にアメリカが日本にした行為を許すかどうかという問題は、まったく別の次元で論じなければならないことです。そういう教育がまったくできていない。ただ数学や英語を教えれば良いという問題ではないのです。

江森:よく言われるように自虐史観的な教育がいまだにされているということでしょうか。

島村:僕が知る限りでは今の若い人たちも戦争に至った背景や理由などはまったくと言って良い程知りません。一方でテレビなどでは戦犯に罪を押し付けて自分たちの罪を逃れようとするおかしな教育がなされています。こんなに自虐史観を叩き込まれては、外国に行ったって対等な立場でのまともな議論などできるはずもありません。

江森:しかし教科書にそういう表現をすると日本のマスコミが騒ぎますよね。これもおかしな話だと思います。外国のマスコミが騒いで、日本のマスコミが擁護するというのが普通ではないですか?

島村:そうだよね〜、何なんでしょうね、マスコミっていうのは(笑)。

江森:「自分たちの国」という感覚が希薄なんでしょうか。

島村:もう十年以上前の話ですが、ある先生が東大の学生に「北朝鮮が攻めて来たらどうする?」という質問をしたのですが、全員が同じ答えをしたそうです。何と答えたと思います?なんと「どこかの国に逃げる」です!

江森:一億総難民ですか!一億人の難民を受け入れてくれる国はさすがにないでしょう(笑)。

島村:こういう教育が大学に入るまでになされているというのは恐ろしいことです。国がなくなったら命がないんだという、国と命はイコールなんだということをしっかり教育しなければなりません。

江森:『文明の衝突』の著者であるサミュエル・ハンチントンは「日本文明」を世界のどことも違う固有の文明として分類していますが、そこまで国に対する意識が薄いと「日本文明の消滅」という危機感を持たざるを得ません。

島村:その通りですね。それどころか既に消滅に向かって進んでいるのかもしれません。アメリカで発見された『静かなる戦争のための沈黙の兵器』という極秘文書には、国民を完璧なマインドコントロール下においてダメ人間化した上で、国を滅ぼしていくシステムが書かれています。そういうことをされているんですよ。

 やはり大東亜戦争を契機に、日本人の道徳心が失われてきたように思います。つまり自分の命を賭して誰かのために生きるという考え方、生と死を常に認識しながら、いつ死んでも悔いのないという生き方、これが日本の「文明」だと思うのですが、それが失われています。生きているうちに名前を残したいとか、人から評価されたいとかという価値観に変わってしまっているように思います。

江森:我々の文明を取り戻していくための具体的なアイデアはありますか。

島村:戦後が契機だとすれば六十年かかってダメになってきたわけで、三倍かかるとすれば改革には百八十年かかるので、我々が生きているうちには無理なんですけど(笑)、やはり学校の改革、それも幼児教育でしょうか。朝起きたら「おはようございます」出かけるときは「行ってきます」そういう教育を三歳までにきちんとやることでしょう。そして日本人に生まれてきて良かったんだよということを教えることです。

江森:最近特に政治の無力を痛感していて、ならば企業に就職してから教育しなおすしかないのかと思っています。私の言い方でいうと、これこそが「CSR」ということなのですが。

島村:それは大賛成です。心ある中小企業の社長はきちんと再教育をやっていますよね。しかし企業でできる教育には限りがあります。本当の教育はやはり小さい頃からやるべきです。

江森:そうなると国家の教育システム、つまりは政治が大事ということになりますか。

島村:政治は大事です。官僚主導をやめよう!などということではなく、まずは官僚を「命を賭けて国を守る」という気概をもった人の集まりにしないと…。時間はかかりますけどね。まさに百八十年計画ですし、そういうことが言える政治家に出てきて欲しいですね。

江森:地方から先に変わるという可能性はありませんか。

島村:それは大いにあり得ると思います。橋下さんだって大阪ですし、うねりを作るのは必ずしも中央ということではないと思います。日本人はこんなすごいということを九割の県民が語れる県ができたら、そこから日本が変わっていくでしょうね。

 何はともあれ教育ですよ。教育をしっかりやれば国民自らがいま何をしなければならないかを客観的に把握できるようになると思うのです。しかし実際は、自分は批判をするだけで誰かがやってくれるだろうと思っている評論家ばかり。言葉なんていらない、とにかく自分がやらなきゃいかんのだという人が少ないですね。

 そういう意味では僕が全印工連の会長をさせてもらって誇りに思うのは、いま一生懸命やってくれているメンバーは、自分のやっていることが何か仲間のために役に立ったらうれしい、それ以外のご褒美は何もいらないと思っている人ばかりだということです。まさに本来の日本人としての価値観を持った人たちが集まってくれたということがとてもうれしいのです。

江森:そういう生き方がかっこいいという価値観に変えて行きたいですね。

島村:そうですね、そういう思いが少しでも広まればいいですね。僕は国を動かすなんて立場ではないから、全印工連会長という任期の中で、お前がやったことは役に立ったよって言ってくれる人が一人でもいてくれればと願っています。そのような小さな活動の積み重ねが、他の業界、地域、国と繋がっていくことで大きな力になると思います。

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