大江電機株式会社代表取締役社長 大江光正さん
財団法人横浜企業経営支援財団では、台湾の政府組織である台湾貿易センターと連携してインターンシップを実施しており、大江電機さんと弊社は三年前よりインターンの受け入れ協力をしています。今年1月から2月にかけて実施されたインターンシップを終えて、大江社長にお話を伺いました。
江森:台湾から研修生を受け入れて、社内に何か変化はありましたか。
大江:うちの場合は中国でビジネスを展開していて、その立ち上げから現地でのマネジメントを、日本で採用した中国人に任せています。最初は慶応大学の大学院卒、次は横浜国大の大学院卒の、両方とも女性ですが、日本人ではまずそんな優秀な人材は採用できませんし、言葉はもちろん現地の商習慣がわからないと話にならないと思ったので、最初から外国人を採用しました。そういう実績があったので、外国の人たちと一緒に働くということには違和感がなかったのです。
しかしそうはいっても、うちはプロパーの社員ばかりですから、外の人たちと交わるという経験が少ない。今回のインターンシップを通じて、せっかく遠くから来る研修生に何か持って帰ってもらおうと色々考えたり、飲みに連れて行ったり、そういうことを厭わずにやれるようになってきたことは、社員にも大変良い経験になったと思います。
江森:そうですね。私もインターンシップは会社に良い影響がたくさんあると思っているのですが、一般的にはあまり積極的に受け入れるという雰囲気ではないように感じます。何が障害になっているのでしょうか。
大江:中小企業の場合は経営者が決めれば良いだけの話だから、経営者にそういう意識があまりないということでしょう。日本は島国だからか積極的に新しいことに取り組むというよりは、限られたものの中で守るという意識が強い。そういう影響もあると思いますよ。私なんかは「おお、いいじゃないか」ということで、どんどん受け入れちゃうから社員も抵抗できない(笑)。
江森:若くて優秀でやる気もある人が、たとえ短い期間でも一緒に働いてくれるのは楽しいですよね。
大江:大いに刺激を受けますね。
江森:先ほど言われていた「守る」という意識のせいか、どうも企業に元気がありません。もっともいまは「アベノミクス」でちょっと盛り上がっているようにも見えますが、全体的には停滞ムードの中で、それが故に若者の職場もなくなっていくという悪循環に陥っていると思います。若者に仕事を作るためにも、企業は新しい価値を生み出さなければならないと思います。
大江:う〜ん、それはねえ、私は両方に責任があると思いますよ。経済がグローバルな競争に入ってしまったが故に、日本の企業が社会保障も含めて人件費を負担することが相当なリスクになってしまっているという現状があります。右肩上がりの時代と違って、新たに人を雇うということのリスクが、かなり大きく感じられるようになってきています。
一方で若い人の仕事に対する意識がちょっと低すぎるという問題もあると思います。「食えちゃう」ということね。確かに独身で親元にいれば働かなくても食べるぐらいは食べていけるんだろうけど、やっぱり自分で食べて行くんだという責任感を持たないと…。働く場がないというけれど、コンビニのアルバイトだってフルにやれば
月に二十万ぐらいは稼げるわけで、安いアパート借りて生活していくことぐらい十分できるはずなんですよ。それをしないで親のところで仕事もしないでぶらぶらしてる。国はニートの支援策とか色々言ってるけど、自立する気のない者にいくら支援したって意味ないでしょう。溺れてるから浮き輪を投げてやってるのに、掴まらないんじゃ仕方ないよね。
江森:しかし、掴まらなければ死んでしまうわけですよね。それでも掴まらないというのは何故なのでしょう。
大江:実際にはそれでも「食えちゃう」わけです。私の父は戦争に行きましたから、戦地で食べるものがなくて大人が醜く争う姿なんかを見ていて、良く話を聞かされました。今やらなけらば食べられないかもしれないと思えば人間はがむしゃらになるものですが、今はそういう時代ではないということが根っこにあるのです。
江森:確かに食べられないということになれば誰だって必死になるというのはわかるのですが、そうなるまで気がつかないというのが、どうにも悲しいことだなあと思います。このままではいつか食べられないような状況になってしまうかもしれないから、今がんばっておこうとどうして思わないのかと…。
大江:自衛隊の特殊訓練では、最低限の装備で食料を持たせず1週間富士山のふもとに放り出されるのだそうです。そこで草の根っこや、ヘビやネズミを食べて生き延びる訓練をするのです。人間を鍛えるというのは、まずいかに食べていくかということから教えるべきなのであって、小学校でもサバイバル訓練をやってみればいいと思いますよ。
江森:学校も家庭も企業も面倒見が良すぎるのでしょうか。
大江:弊社でも研修というと担当者が事細かに準備をしようとするのですが、私はそこまでするなと言っています。手取り足取り教えることが本当に人の成長の役に立つかというと、決してそうは思いません。いつか大きな問題に巻き込まれたときに、あまりにも手取り足取り教えられた人間は自分で解決することができない。いちいち相談にきて言われた通りにやって、解決したような気になっているけれど、それは本人の成長にはつながっていないと思います。
江森:自らの成長を自覚しにくい時代背景もあるように思います。
大江:長期的なことで考えれば、やっぱり教育は大事です。単に数学がどうの歴史がどうのということではなく、ひとりの人間として、いかに生きて、いかに生活していくか、そこにひとり一人の責任があるのだということをきちんと教えていかなければなりません。
若者に新しい仕事を作ることも、企業の社会的責任ではないでしょうか。
大江:私は以前からカンボジアの孤児院の支援をしているのですが、寄付しているNPOがこの4月に現地に学校建設をすることになり、先日その贈呈式のためにカンボジアに社員2名を連れて行ってきました。アンコールワット観光の拠点であるシェリムアップからわずか三十分ぐらいのところですが、それはそれは貧しいところです。今回の贈呈式にも村の人たちがたくさん参加していたのですが、彼らがなぜ来ているかといえば、記念品が目当てなのです。それも250グラム入りの化学調味料。その記念品にいい大人が群がるわけですね。一緒に行った社員は四十過ぎぐらいのが2人でしたが、その光景はインパクトがあったようです。若い人の教育はもう日本じゃないですよ。アジアの田舎に放り込んで、そういう現実を体験させることです。それで考え方が変わります。
せっかくカンボジアの学校につながりもできたので、これからは年に2人ぐらいずつ社員を送り込もうと思っています。飛行機の手配も現地の宿泊の手配も自分たちでさせます。そうやって自分たちがいかに恵まれているか、世界はいかに広いかということを、体で覚えさせることが必要だと思っています。
江森:大江社長は私にとっては青年会議所の大先輩でもあるわけですが、青年会議所の活動から生まれたNPOである横浜スタンダード推進協議会で今年から若者の就労支援をやりたいと思っています。まさに先ほど大江社長が言われた、自分の人生をいかに生きて行くのかを考え、その組立を自分でできるスキルを身につけられるような「キャリア教育」ができたらと考えています。大江社長にも是非先生としてご協力お願いします(笑)。
大江:成長とは、本人が変化するということと、自分の幅を広げるということです。同じパターンの繰り返しではなく、今までと違うプロセスでできるようになるということが成長なのです。そういうことを教えていってください。
江森:貴社では昨年に続き今年も台湾のインターン生を正式に採用されたそうで、これからが楽しみですね。
大江:彼らはよく勉強しているし興味の幅が広い。昨年台湾から入社した社員がブログを書いているのですが、視点がユニークでおもしろいですよ。2人で台湾での事業立ち上げをしてもらおうかと考えています。
江森:弊社もインターンシップを自社に活用できるようにがんばりたいと思います。また来年もご一緒できることを楽しみにしています。本日はありがとうございました。