横浜市会議員 古川直季さん
江森:古川さんとは横浜青年会議所時代からかれこれ10年以上のお付き合いでありながら、なかなか真面目な話をする機会がなかったのですが(笑)、まずは古川さんが政治家を志したきっかけからお聞かせいただけますか。
古川:こんなこというときれいごとに聞こえるかもしれないけど、人生1回きりですから、人を幸せにする仕事がしたいなという思いが強くて、子どものころから医師、弁護士、消防士、自衛官、学校の先生…色々な職業に興味がありましたね。あまりに色々興味がありすぎちゃって、ひとつ一つへの関わりは浅くても、法律や制度を通じて広い分野に関われるというので、政治家に憧れましたね。なれると思ってなかったですけどね(笑)。
江森:具体的にはいつ頃から活動を始めたのですか。
古川:高校の頃から興味を持ち始めて、明治大学の「雄辯部」というクラブに入って、先輩にも政治家や秘書の方がいましたので、色々と教えていただきました。ただ当時は「若い政治家」が今のようにもてはやされていたわけではなくて、どちらかというと「若さ」というのは「たよりなさ」「経験不足」とマイナスイメージにとられることが多かったので、すぐに立候補なんてことは考えていませんでした。それで横浜銀行に就職して、まあ10年ぐらい真面目に銀行に勤めれば、地域の皆さんも認めてくれるのかなあ…なんて漠然と考えてましたね。
江森:でも初当選は26歳でしたよね…
古川:その話をすると長くなっちゃうんですけど(笑)、ある議員さんから声をかけていただいて立候補を決意したのですが、宮沢内閣の解散などがあって、その話が白紙になってしまったんですよ。でも銀行も辞めてしまってますから戻ることもできず、紆余曲折を経てなんとか平成7年に初当選させていただいたということです。
江森:意外と激動の人生なんですね(笑)。今年で議員生活20年ということですが、ここまでやってきてどうですか。
古川:学生時代に聞いたアメリカの政治家の言葉ですが、政治は「妥協の芸術」だというんですね。人は10人いたら10通りの考え方があって、みんなが満足、みんなが納得なんてことあり得ないじゃじゃないですか。誰かが満足しても誰かが不満を持ってしまう。それを調整するのが政治の役割で、時にお互いに妥協というか我慢していただかなければならないという意味だと思いますが、そのバランスが大変難しいと感じています。
江森:私は国民を「気持ちよく我慢させる」のが優れた政治家だと思ってますよ。同じ我慢するなら気持ちよく我慢させてくれよと、いち国民としてはいつも思ってますね。
古川:はあ〜、勉強になるなあ(笑)そういう意味では、昨今の安保法制の問題などは、大変難しい問題だとは思うんですが、「自分たちの国をいったいどうやって守るのか?」という根本的なところでの議論がされてないというか、みんながしたがらないというか、そんな気がしていますね。
江森:そうですね、個人の権利は主張するけれども、社会全体のことを気にかけないというか、何か個人が社会の外にいて、そこから社会を批判しているあるいは傍観しているような感覚があるような気がしていますね。本来自分たちの社会なんだから、個人は社会の中にいるものであって、外から批判などできるはずもないんですけどね。
古川:社会どころか家族でさえ絆が失われてきているような気がしませんか。最初から個人個人別行動というか。我々が子どもの頃はもう少しつながりが深かったですよね。
江森:そうですよね、いつからこうなっちゃったんですかねえ…
古川:学術的には色々な説があるんでしょうけど、僕がこころがけているのはもっと「つながり」を大事にしようということなんですよ。昨日もマンションの管理組合の理事会があったので、そこで「一度みんなでご飯食べましょうよ」って提案したんです。そうしたら「いいですね」ってことで今度やることになったんですが、マンションなんてそもそも近所付き合いが煩わしいと思っている人が好んで住むところなのに、そういう提案にみんなが賛成するというのは、人とのつながりや安心感みたいなものをみんなが求め始めているんじゃないかと思います。そこは政治行政ももっと意識した方がいいと思うんですよね。今まではそんなこと「個人の勝手」であって、行政が口を出すようなことじゃなかったんでしょうけど、いまはもっと意識的に、人と人とがつながりを持てたり、交流できるような事業を考えていくべきですね。
江森:ひとり一人が社会の中で「生かされている」ということを意識できる「体験」が日常の中にたくさんあればいいんですけど…
古川:まさに江森さんがおっしゃるように、体験しないとわからないことってたくさんあると思うんですよね。例えば、日頃仕事が忙しかったり、パソコンや機械と向き合うことが多かったりすることが原因で人間性が失われていってしまうのではないかと仮定するならば、もっと土に触れるとか農業をするなどという「体験」が、本来の心を取り戻す役目を担ってくれるんじゃないかとか。この椅子にしても壁のクロスにしても、私たちは日頃化学物質に囲まれて暮らしているわけなんですが、それを自然の木にしてみたら、本来の人間性を取り戻せるんじゃないかとか、そんな仮説を立てているんですよ。
だから農業体験ができる公園や市民農園などももっと増やすべきだと思ってますし、公共建築物を木造にしようという法律もあるので、それももっと活用すべきだとも思っています。
江森:そんな法律あるんですか。知らなかったなあ…
古川:あまり知られてないですよね。森を維持するためには、ある程度木を伐採してやらなければいけないので、国の政策として公共建築の木造化を推進しているんですが、罰則規定もありませんし、技術的に木造の高層建築がまだまだ難しいというので、なかなか進んでいないようですが、技術的な問題はだいぶ解決されつつあるようですよ。横浜市でも保育園や学校の内装を木にしていこうとか、前向きに検討され始めています。
江森:横浜市もいろいろなことに取り組んでいますね。最近横浜市の職員の方と接する機会がとても多くなってきているのですが、優秀な方が多いなあと感じます。人材の宝庫だと思いますね。
古川:そうですね、もっともっと活かした方がいいですよね。確かに役人の不祥事などもあることは確かなんですが、メディアが不祥事と同じぐらいいいことをした役人の記事にも紙面を割いてくれるといいんですけどね。
江森:いいですねえ。悪いことばかりクローズアップされるから、事なかれ主義というか、わからないこと、知らないことに挑戦しようという意欲が薄れてしまうんだと思いますね。
古川:もっと人の良さを引き出すような施策を考えないといけませんね。そういう意味では、CSRでどんどん社会に目を向けて、一緒に社会を良くしようとがんばってくれる企業が増えてきていますし、そういう企業の方たちと行政が一緒になってまちづくりに取り組んでいくべきだと思います。
江森:これから政治家として、どのように活動していこうと考えていますか。
古川:若手改革派の首長のように「改革するぞー!」って言ってみんなを引っ張って行くようなリーダーも素晴らしいと思いますが、僕ははっきりいってそういうタイプじゃないんですよね(笑)。確かに政治家にはリーダーシップが求められていると思いますし、明確な政策ビジョンも必要だとは思うのですが、これからの時代は少し変わってくるんじゃないかという気もしています。昔みたいに経済が確実に上向くことがわかっていて、財源もたくさんあるなかで、それを福祉に使うのか、道路を作るのか、ということを決められた時代だったら、「あれもやります、これもやります」という政治スタイルで良かったかもしれないけど、これからはそういう時代じゃない。だとすれば、国民の皆さんに厳しいことでもこれだけはお願いしたいんだということを政治家が正直にいうこと、そういうリーダーシップが求められているんじゃないかと思います。政治家としてこれ!というような明確なものではありませんが、そんな「みんなと一緒にやっていく」タイプの政治家として活動していければいいと思っています。