産んでくれてありがとう!って、みんなで応援できる社会にならないかなぁ。

  • 2012年11月1日
  • 2020年12月26日
  • JO対談

特定非営利活動法人びーのびーの 畑中祐美子さん

江森:子育て支援の現場から見て、現在の子育てを取り巻く環境はいかがですか?

畑中:女性が一生のうちで子どもを一人産むか産まないかという時代になってきているにもかかわらず、せっかく産んだ人に「良かったね」とみんなで祝福して応援するという雰囲気になっていないということに、私だけではなくこの仕事に携わっている人はみんな危機感を持っていると思います。隣の家に子どもが産まれたら「うるさくなるなぁ…」とか、電車に乗っても「あ〜あ、子どもが乗ってきちゃったよ」というような残念な空気があって、もっと「産んでくれてありがとう」って、どうしてならないのかなぁ…と。

江森:私も含めて反省しなければいけないことですね。びーのびーのとしてはそういう風潮に対してどのように臨んでいますか。

畑中:それぞれの施設ごとにいろいろな考え方があるのですが、私たちはお母さんたちに「教える」のではなく、せっかく産んでくれたんだから後は私たちに任せて!という気持ちでいます。そうやってお母さんに少し楽をしてもらって、仕事に戻るもよし、もう一人産むもよし、そうでなかったとしても子育てが大変で虐待に走ってしまうぐらいなら、私たちが全部やってあげるっていうぐらいの気持ちでいますね。

江森:政府や地方自治体の予算は十分に確保できているのでしょうか?

畑中:消費税の増税分は子育てに使うと政府は宣言しているので今後さらに増えてきます。しかし一方でテレビの街頭インタビューなどを見ていると、必ずしもみんなが理解してくれているわけではないということもわかります。大事な税金を預かる私たちとしては、予算の使い道についても積極的に提言していかなければならないと思っています。

江森:横浜市の子育て支援政策はどうですか?

畑中:中田市長に続き林市長も子育ては政策の柱にしてくださっているので、他の事業に比べれば十分に予算も確保されていると思いますが、使い方としてもっとこうすればというのはあります。

江森:なるほど横浜は恵まれているんですね。でも疑問に思うんですけど、いわゆる問題を起こすようなお母さんって、子育て拠点のようなところには来ないんじゃないですか?

畑中:そうなんですよ。だいたいそういう人って保健所の健診に来ないっていうところで発覚するんですが、保健師さんが訪問しようとしてもだいたい断られます。じゃあ、そういう人の見守りは誰がするのか?っていうことなんですが、そのあたりの情報については個人情報保護の壁があって特に行政機関との連携が現在、有効にとれているとはいえない状況だと思います。民生委員さんもそうですが、地域で子育てを支援する立場として、虐待予防の観点からも、もっと私たちにできること、果たすべきが役割があると思っています。ただ、来ている人が問題がないかというとそうでもない、一見普通に明るいお母さん、お父さんと見えていても、スタッフとおしゃべりができるような関係性になってきたときに、ようやく実は…と深い悩みを吐露されたりすることはよくあることです。そういう意味でも、拠点に来られている親子と丁寧に関わること、そのことを大切に取り組んでいます。

江森:最近若者のホームレスが増えているそうなのですが、彼らの特徴として支援を申し出ても「こうなったのは僕の責任なので、自分でなんとかしますから結構です」と断られることがあるという話を聞きました。もしかしたらお母さんたちにも同じような感覚があるのではないでしょうか?

畑中:挫折を経験していないというか、「がんばれば何でもできるワタシ」みたいな思い込みがあると思うんですよ、晩婚だし。実際に「できない」なんてカッコ悪くて言えないっていう保護者の方もいて弱みを見せたくないかなと思います。

江森:思い通りにならないことが受け入れられない人が多いのかもしれませんねぇ…。子どもなんて思い通りになるわけないんだけど(笑)

畑中:だから「なんでもありなんだよ」ってメッセージを意識して出すようにしています。例えば十時〜十二時のプログラムがあったとして、私たちはお母さんたちが十時ぴったりに集まってくるなんて思ってないですよ。だって出かけようと思ったら子どもが泣き出したとか、寝ちゃったとか、そんなの当たり前のことでしょ。だけどはじめて子どもを産んだばかりのお母さんは「十時に行けない!」ってなっただけでパニックになっちゃって…。だからこそ「なんでもありなんだよ」て言ってあげて「なんだそれでいいんだ」って納得する経験が大事なんだと思っています。

女性が社会でもっと活躍できるようにするためにも、子育てと企業の間に橋をかけることが必要だと思うんです。

江森:私は政府の子育て支援策って、言ってみれば「隔離政策」であって良くないと思ってるんです。一年間一切仕事と関わらずに社会から隔離しておいて、それが終わったらほぼ通常通りの勤務をさせるというのは不自然ではないかと。隔離されるが故に、子育ての世界がどんどん強固になって、一種異様な別の世界が生まれてしまっているように思います。

畑中:私たちが若い頃から子育て期には「世の中から切り離されちゃった感」てすごくありましたね。そんな計り知れない喪失感の中で、思うようにならない子育てとの戦い、日本語で伝えられない孤独…。そうやってひとりきりで袋小路に入ってしまわないように子育て拠点があると思っています。

江森:確かにそのような支援体制が整うのは良いことだと思うのですが、整えば整う程、異様な世界がもっと強固になっていくような…。子育て支援はもっとオープンであるべきではないでしょうか?

畑中:そうですね。子育て拠点だけが居心地の良い場所であってはいけないと思っています。地域の方をはじめ、子育て以外の施設とも交流できるように意識してプログラムを組んでいます。

江森:そのあたりで企業が関われること、役に立てることがあるのではないかと思っているんですよね。

畑中:先日ハローワークの方に来ていただいて「キャリアアップ講座」をやったらすごい反響でしたね。いまはお母さんも働かなければ食べていけない時代になってしまったから、関心は高いですね。幼稚園よりは保育園志向ですし。

江森:日本の雇用政策にはいまだに工場のライン中心の考え方が色濃くて、子育て中のお母さんが中途半端に働いたら生産性が落ちると思い込んでいるのです。でも障害者が入ると生産性が上がるという研究もあるように、実際には弱い立場の人を気遣うことで仕事の仕方にも工夫が生まれるので、必ずしも生産性は下がらない。子育て中のお母さんたちにも働き方の選択肢が増えるような社会を作っていくために、細くてもいいから子育てと企業をつなぐ橋を架けておくことが大事なのではないかと思います。お母さんのインターンシップなんていう企画があってもおもしろいですよね。

畑中:それがお母さんのためだけのものではなく、子どもためにもなることであれば良いと思います。〇〜三歳期に子どもらしく親子で過ごすということもまた大切なことですから。

江森:やはり三つ子の魂ということですか。

畑中:学童など青少年期を見てる団体の方たちからは、乳幼児期が大事だからこそ「子どもをお母さんから自由にしてあげて」って言われますね。今や逆上がりの家庭教師とか、かけっこの家庭教師とか珍しくなくなっちゃいましたよね。現実には子どもを自分の思い通りに管理したいという願望が強いのです。一方で子どもはたまにはサボりたいのだけど、ケータイで居場所がわかっちゃう時代ですから、サボることすらできない。そうこうしているうちにお互い息が詰まってきちゃう。結局最後に子どもの幸せとなって返って行けばいいことであって、必ずしもいま、親と子だけで日々を過ごすことが子どもにとってよいことではないということを伝えていきたいですね。子育て期はいろんな人とのかかわりの中で親も子も過ごしていってほしいと思います。

江森:特に最近になって、自己主張が強いというか、権利に敏感というか、自己中心的な振る舞いをする人が増えているような気がします。

畑中:「お互い様」という感覚が共有しづらくなってきているのは感じます。いっぱいいっぱいというか、ちょっとしたことでクレームになってしまう…。「子育てって思い通りにならないし、お互い様だよね」って、発信し続けるしかないと思っています。

江森:過度な自己責任社会の影響もあるでしょうか。

畑中:あまりに皆が権利を主張して何でも役所に押し付ければ税金も上がってしまうわけですし、小さな政府でやっていくためには「お互い様」で片目つぶって、少しずつ分担してやっていくしかないはずですから…。多様なステークホルダーと協力し合ってやっていこうよということを発信していけたら良いと思います。

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