第四話 ゴシック体
明朝体と並んで馴染み深い「ゴシック体」。活版印刷を発明したグーテンベルクが開発したラテン文字は後年ドイツの国字となり「ドイツ・ゴシック」と呼ばれましたが、装飾が多く読みにくい書体でした。20世紀に入って文字の装飾を廃して太さを一様にした「サンセリフ」という書体が開発されて流行する中で、アメリカ人のベントンが開発した書体「オルタネート・ゴシック」が日本に輸入され、長い名前を省略して「ゴシック」と呼ばれました。それがいつの間にかすべてのゴシック体の総称になってしまったというのが名前の由来のようです。
「サンセリフ」というのは、「セリフ」と呼ばれる装飾用の尖った出っ張りがない書体の総称ですが、日本のゴシック体は欧米のサンセリフにならったものと考えられるものの、その発祥は定かではありません。また完全に装飾がないわけではなく、わずかに毛筆の「止め」のニュアンスも見られることから、隷書体にルーツがあるのではないかという説もあります。左図の游ゴシックや小塚ゴシックのようにわずかに装飾のあるゴシック体を「セリフ系ゴシック体」と呼ぶ場合もあります。
メリハリの少ないゴシック体は、一般に明朝体に比べて可読性が低いと言われ、本文には不向きとされています。そのため見出しなど大きなサイズで目を引く必要がある部分に多用されます。
活字時代には選ぶほど種類のなかったゴシック体ですが、写植の普及によって書体のバリエーションも増えていきました。中でも写研の「ゴナ」は線がすべて均等な幾何学的でモダンなデザインで一世を風靡しました。今ではスタンダードになったモリサワの「新ゴ」、フォントワークスの「ロダン」などは、ゴナの影響を受けて開発されたものです。