横浜の課題を見える化して地域でお金が回っていく仕組を

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株式会社トラストアーキテクチャ 前川知英さん

神奈川県葉山町出身。東京大学工学部・同大学院工学系研究科修了。株式会社トラストアーキテクチャ代表取締役。専門はデータサイエンスとファイナンス。様々な分野のデータを収集・分析する傍ら、各分野の第一人者と対話を行ううちに、共創・オープンイノベーションの将来性を感じコア事業として研究開発を行う。2023 年6月より横浜市との協働事業として、公民連携の取り組みの事業・広報支援、活動同士のネットワーキング、活動指標化等を行うシンクタンクである「よこはま共創コンソーシアム」を組成し、代表として活動している。
https://www.trst-arc.com/(株式会社トラストアーキテクチャ)
https://kyoso.yokohama/(よこはま共創コンソーシアム)

江森:今年6月から横浜市政策局の共創・オープンイノベーション推進事業を受託している「よこはま共創コンソーシアム」の仲間である前川さんと、今日は横浜市の共創事業の可能性について大いに語りたいと思います。初めて前川さんにお会いしたとき「あれ?なんで東京の会社が?」と思いましたが、神奈川出身なんですよね。横須賀でしたっけ?

前川:正確に言うと葉山出身で高校が横須賀ですね。

江森:葉山でしたか。高校は小泉元首相ご出身の名門横須賀高校ですね。で、現役東大と。横須賀高校から東大は結構レアなのでは?

前川:私の学年では2人でしたね。

江森:大学では何を勉強されたんですか?

前川:工学部の大沢研究室というところで、今ではコンピュータサイエンスと呼ばれている分野を専門にやってました。

江森:あれ?歳はいくつでしたっけ?

前川:いま三十九です。

江森:三十九歳の人が大学生のときにはすでにコンピュータサイエンスなんていう学問があったんですね。

前川:そうですね、当時はデータマイニングとかOR(オペレーションズリサーチ)とかからの流れでしたね。

江森:ORは僕も学生のときにやりましたね。戦争の兵站で使うやつだよね。懐かしいな。大学を卒業して一旦は就職されたわけですね。

前川:当時、コンピュータとか確率統計を学んだ学生が、金融派生商品の開発やリスク評価などの分野で、大量に金融機関に就職していた時代だったんですね。その一番最後の頃に金融機関に就職して、資産運用などを担当していました。

江森:やめたのはいつ?

前川:2016年の6月ですね。その頃はフィンテックと盛んに言われていて、ディープラーニングなども急速に発達していたので、古典的な金融数理より、大学の頃に勉強していたデータサイエンスの方が伸びしろがあるなと思いまして、データ分析専門の会社を3社転々としました。そこで今の会社のメンバーと、売り先を見つけて2018年に会社を立ち上げました。

江森:どんな会社なんですか?

前川:いろいろやっているのですが、すべての仕事に共通するのは、企業が持っているデータ、つまりお客様とのやりとりの履歴や販売データなどですが、それらのデータを分析して、いつどんなタイミングでどんな情報を流せば、お客様が最も喜んでくれるかということをコンピュータを使って明らかにしていこうということです。コンサルとデータサイエンスの中間ぐらいの仕事ということになるでしょうか。

江森:なるほど、そういう経歴の持ち主なんですね。それで今回のコンソーシアムには、どういう経緯で関わるようになったのですか。

前川:そもそも横浜の共創とのつながりができたのは、2018年か19年だったと思いますが、私の恩師である大沢教授と横浜市との合同企画で、リビングラボって何?とかみんなで共創について考えようみたいなフォーラムがことぶき協働スペースで開催されまして、たまたま横浜で仕事があったので大沢教授に連絡をとって遊びにいったというのが始まりでした。その後も大沢教授は年に一、二度は横浜市に呼ばれて共創のイベントをやっていたので、私もそのうちの何回かはお手伝いするようになって、関口さんはじめ共創推進室の方とも顔見知りになっていったんです。

江森:大沢先生つながりなんですね。コンソーシアムとしては、今回の委託事業の前に市民協働推進センターの運営委託の話がありましたよね。

前川:そうですね。昨年の今頃だったと思いますが、公募が出て、いくつかの団体の皆さんとコンソーシアムを組んで応募しようということになって、そこでまちビズの坂佐井さんとか、コミュニティデザインラボの杉浦さんなどとも知り合いになりました。結果的にはその公募には採択されなかったのですが、今年の3月に今度は政策局共創推進課から協働・共創一体化の実証実験のプロポーザルの公募が出まして、今回のコンソーシアムの皆さんと応募することになったということです。

江森:最初の頃は別に前川さんがリーダーと決まっていたわけではなかったと思うけど。

前川:そうなんですよ。今回の公募はサーキュラーエコノミーの要素が強かったので、最初は公益というものをいかに数値化して可視化するかというような分野ではお手伝いできると思いますよ~的な感じだったのですが、流れ流れて誰からともなく「前川さんとりまとめやったら?」みたいな声が大きくなってきて、諸先輩からも追い込まれまして僭越ながらとりまとめ役を務めさせていただくことになってしまいました。

江森:リーダーやってみてどうですか?

前川:ハハハハハ…。今回ははじめましての方も多くて、メンバーの人となりとか、どういう強みを持っているのかということが、まったくわからない中でのスタートだったので、少し時間はかかってしまいましね。そもそも横浜地場の人間ではないので、市役所の方も組織にしても、どこにどんな係長さんがいるとかいうことも全然知りませんしね。

江森:でも、それが良かったよね。知ってたらなんかやだな~って思うもんね(笑)えー、あいつとやんの~とかね(笑)

前川:ある意味そうですね(笑)私の場合、誰がいいとか悪いとかまったくありませんし、それぞれクセはあるにしても、有能な方たちが集まっているので、力になっていただけるところは力になっていただこうというスタンスだから、なんとかまわっているのかなとは思います。

江森:えらいね~、そういう考え方ができるというのは素晴らしいですね。この取り組みについての手応えはどんな感じですか。

前川:コンソーシアムのメンバーは皆さんこれまでの実績もあるし、活動を続けてきた方たちばかりなので、うまくはまればおもしろいことになるとは思います。それ以外にも横浜にはおもしろい取り組みがたくさんあると思うのですが、プロモーション下手というか、誰にも知れらていないようなものが多いと思うんですよね。また以前に比べて損益分岐点が下がって事業化のハードルも低くなってきているので、背中を押してあげるだけで自走していける取り組みがたくさんあるのではないかと思っています。

江森:それはたぶん自治体としての横浜市が大きすぎるということだと思いますね。だから良くも悪くも百花繚乱いろいろな取り組みが乱れ咲くような状態になる。地方の自治体は予算もないから、それこそ官民一体となってコンテンツを絞ってプロモーションしてくるじゃないですか「○○の街」みたいなね。そういう意味では横浜では区の役割が大事になると思いますが、何か感じるところはありますか。

前川:ひとつには局によって区を動かしやすいところとそうでないところがあるということはあるようですね。それとそもそも区に機動的な予算や権限が与えられていないということもあるのではないでしょうか。でも、市外企業の立場で考えると、行政区というよりは沿線という単位で考える方がファイナンスしやすいという面はあると思いますね。

江森:なるほど、市よりも小さな単位で経済政策を担うということが、そもそも想定されていないということですね。このあたりは特別自治市構想ともあわせて改善の余地がありそうですね。今回の委託事業はあくまでも委託なので、来年度続くかどうかもわかりませんが、続くと仮定した場合どうしていきたいですか。

前川:この取り組みに参画した当初から考えていたことですが、すべての課題にラベルを付けて、さらにその課題に対して活動している団体がこういう支援を求めていますというような情報がひとつにまとまった、四季報のようなものを作りたいと思っています。そういうのができると、市民が何か課題を感じたときに、すでに取り組んでいる人がいれば、その活動に参加することもできますし、市外の企業が横浜で実証実験をしたいと思ったときに、相性の良さそうな団体やプロジェクトを見つけることもできます。さらにもう一歩踏み込めば、銀行が顧客の事業パートナーとして勧めたり、富裕層に寄付を勧めたりという、地域でお
金が回っていく仕組みが作れるのではないかと思っています。

江森:いいですね。私はそういうのは企業側にも必要だと思っていて、以前から経済局には提案していて、たぶん未だにできていないと思うのですが、企業がCSRや新規事業の文脈で、どんなことに関心があるのか、またどんなことだったら協力ができて、どんなリソースが提供できるかというようなことを、一覧にまとめたデータベースがあるとマッチングのためのいい資料になりますよね。会社の方はどうしていきたいですか。

前川:これまで何のビジョンもなくバラバラにやっていたことが、おもしろいぐらいにつながってきていて、この横浜のプロジェクトが集大成のようなところがあるんですね。これまでそれぞれがバラバラにプロジェクトをやってきた当社の社員が本当に全員力をあわせて立ち向かったらどうなるんだろうと、その爆発力を体感できるのも、今から楽しみにしています。

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