障害のあるなしにかかわらず誰もが能力を発揮できる社会に

横浜市健康福祉局障害自立支援課 筑後英津子さん

江森:筑後さんには以前から障害者雇用のことで相談に乗っていただいて、結局「雇用」ということでは、いまだに実現していないのですが、定期清掃に来てくれるB型作業所さんを紹介していただくなど、何かとお世話になっています。
今日は特に企業の立場からの障害者雇用についてお話を伺えればと思いますが、そもそも筑後さんはどうしてこの仕事を始められたのですか?

筑後:もともとは大学を卒業して金融系の⺠間企業にいまして、福祉とはまったく関係のない仕事をしていたのですが、あるとき会社の社会貢献活動で水族館を貸し切りにして障害のある子どもや大人を招待するというイベントを行ったのです。そこにある子どもが参加していて、後日、子どもから話を聞いた保護者からお礼状をいただいんですね。それは「今まで知的障害のある息子が周りの人に迷惑をかけるから、公共の場にはほとんど出かけたことがなかったのだけれど、息子がこんなに喜んでくれるなら、もっと外の世界を見せてあげようと思う。そのきっかけを作ってくれてありがとうございました」という内容でした。私それを読んで衝撃を受けてしまって…。
幼児を抱えるワーキングママだった私は、障害を理由に水族館に来られない家族がいるなんて、想像したこともなかったですし、だったら障害がある人にも出かけやすい環境を作っていきたいなと、そのとき漠然と思ったんですね。
その後、夫の海外赴任などもあったので、一旦退職して福祉系の大学に編入学して福祉の勉強をし、神奈川労働局で障害のある方の業務補助という仕事に就いた後、障害者の就労を支援するという仕事も良いのではないかということで、6年前にいまの横浜市の仕事に就き、現在に至ります。

江森:え、6年? ウソでしょ?

筑後:ホントなんですよ。何十年いるんだみたいによく言われるんですけど(笑)。江森さんに初めてお会いしたのが1年目のときです。

江森:それは今日一番の衝撃ですね(笑)ご出身は横浜?

筑後:東京です。

江森:そうなんですか!ウチの会社のご近所さんなんで絶対横浜だと思ってました。

筑後:結婚するまで23区から絶対出ない!と思ってましたけど、夫と私の職場の中間をとったら横浜になったんですね。今では横浜以外考えられません(笑)。いまの場所に住んで13年になりますが、いろいろと地域の課題も見えてきて、そういうところでも何かできたらいいなとは思っています。

江森:最近の横浜の障害者就労の状況はいかがですか?

筑後:令和4年度の神奈川労働局公表の県域データになりますが、働いている方の数としてはもちろん増えていますが、現在の法定雇用率は2・3%で、それを達成している企業が48・5%ということなので、ほぼ半分の企業が達成できていないことになります。でも、人数で見てみると、障害者を1人も雇用していない企業というのは全体の約3割で、7割の企業ではたとえ法定雇用率が達成できていなかったとしても、何らかの形で障害のある方が働いているとも言えます。一般的には大企業が雇用支えをしていて、中小企業への障害者雇用の浸透が課題と言われていますが、実際は中小企業でも障害者雇用が進んできているという見方もできます。

江森:確かにこれだけ人手不足が深刻になってくると、障害者雇用に対する見方が変わってきているかもしれませんね。

筑後:私が所属している部署でも障害者就労啓発を目的に、業界団体や企業向けに勉強会の開催をしていますが、以前より関心を持っていただけるようになってきています。一方で、企業側にも雇用できない理由というのがあるわけで、企業担当者からは、戦力になるかわからない、そもそも障害者との接点がないからという意見をいただきます。昔に比べて地域と企業の関係性が希薄になっていく中で、企業も障害者も地域の中でのお互いの存在を知らないというのは大きな課題の一つになっていると思います。労働市場的には大企業に就職したいという傾向は健常者とまったく変わらないので、障害の有無にかかわらず、中小企業は大企業に比べて人材確保が難しいと思います。ですからなおさら、地域の中でお互いを知っていて、だから採用してみよう働いてみようといった関係性を作っていくことが大事だと思いますね。

江森:障害者に限ったことではありませんが、ご家族のことなども含め、ある程度お互いのバックグラウンドがわかっているというのは大事なことのように思えますね。そんな中、来年4月からは法定雇用率がさらに引き上げられますね。

筑後:2・5%に引き上げられます。従業員数でいうと、これまでの43・5人に1人から40人に1人です。令和8年度からは更に2・7%、37・5人に1人の割合となります。一方で、障害者雇用促進法などの法改正も施行され、法定雇用率の算定が、現在の週20時間以上から、週10時間以上でも算定できるようになります。(精神保健福祉手帳を持っている方、重度の知的障害者・身体障害者のみ)
江森:10時間でも良いとなるとウチでも採用できる可能性は出てきますね。もっとも週10時間でいいよという方がいればの話ですが。

筑後:実はこれまで障害者の20時間未満の短時間アルバイト求人というのはハローワークでもほとんどなかったんです。結局20時間以上じゃないと法定雇用率に算定されないから、障害者枠という意味では、企業にとって10時間で雇用する意味が見出しにくかったのですが、これからはそういう求人も出てくると思いますよ。すでに、同一企業内で午前中と午後で違う事業所で働いている例もありますから、1人の方が時間帯や曜日ごとに複数の近隣企業で働くという方法は考えられますね。雇用保険の課題等はありますが。

江森:なるほど、そういう方法もアリですか。いま私たちがいる「マリンブルー」でも障害のある方が働いているんですよね。

筑後:江森さんの周りでも障害者を雇用してみようという意識の高まりみたいなものは感じますか。

江森:どうでしょう?それほどでもないかな。個人個人では関心があるものの、組織の一員となってしまうと急に無関心になるというような感じでしょうか。まだまだ自分事になっていないように思いますね。

筑後:多様性のある企業って、最初からそれを意図したというよりは、そうならざるを得なかったという場合の方が多いと思うんですよね。例えば人が足りなくなって短時間でもいいからちょっとお願いとかやっているうちに、いろんな条件の人が働けるようになっていたというような場合が多いんじゃないかと思うんですよ。育児や介護、ご自身の病気で時間や仕事内容に制約がある方がいますよね。障害のある方も働く上で何らかの制約があったとしても、その方の能力が発揮できる環境であれば、他の方にも同じように能力を発揮してもらえる工夫ができるはずですよね。

江森:横浜市大の影山先生が、障害者雇用による生産性向上の研究をされていますが、頭では理解できても、結局障害のある人が仕事の中に入ってくることで、これまでのバランスが崩れることへの警戒というか、面倒くささというか、そういうのはあると思いますね。

筑後:前にココラボさんにもやっていただきましたけれど、仕事の切り出しをして障害のある人にできる仕事を作るという過程で、どうしてもこれまでのやり方を一旦崩さないといけなくなると、ご自身のやりやすい方法を完璧に構築されている方ほど、抵抗感はあると思いますね。でも、やってみたらさらに効率が良くなったとか、今までは時間がなくてできなかったことができるようになったとか、プラスの面が見えてきて、最終的にやってよかったねってことになる場合も多いんですけどね。

江森:あとはいわゆる合理的配慮への警戒感ですかね。

筑後:それも法律ができたので「やらねばならぬ」ということになりがちですが、合理的配慮って実は普通のことで、自社の社員が具合悪そうにしていたら「大丈夫?今日は帰れば?」とか声かけるじゃないですか。そういうことなんですよね。それを法律を意識しすぎて障害者だからなんでも配慮しなければならないとなると、社員だって「じゃあ、私たちへの配慮はどうなるの?」ってなっちゃいますよね。

江森:究極的には障害があるとかないとか実はあまり関係なくて、一人ひとりの従業員への配慮ってことなんですよね。そういう意味では法律であまりにも区別してしまうというのも、良し悪しというところはあるかもしれませんね。最後に筑後さんご自身の夢や目標についてきかせてください。

筑後:人生百年時代なので、百歳になっても元気に活動していたいと思いつつ、近所の子どもたちのお囃子活動支援をしながら、今年からは地域のボランティア活動で小学校の地域コーディネーターにりました。私の大好きな地域と、そこに暮らす人たちが、もっとお互いにつながれたらいいなと思っています。係のキャッチフレーズが「横浜で自分らしく働く」なのですが、「横浜で自分らしく生きる」ためのお手伝いを地域の中でできたらいいなと思います。

ふれあいショップ「マリンブルー」

横浜市の障害者就労支援事業「ふれあいショップ」のひとつで、市庁舎3階で営業中。障害のある人もない人も同じ空間で働く開放感いっぱいのカフェです。コーヒーやスイーツのほか、モーニングやランチも好評です。

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