“CSRに取り組む”とはどういうこと?

CSR担当者のお悩み解決シリーズ①

“CSRに取り組む”とはどういうこと?

何をすれば取り組んでいることになるのか?

 企業の経済活動が発達して規模が大きくなるにつれ、社会や地球環境に対して様々なマイナスの影響を与えることが明らかになってきました。日本においてCSR(企業の社会的責任)が意識されるようになった最初の出来事は昭和30~40年代の「公害問題」と言われていますが、公害のように社会に甚大な被害を与える物質の使用は政府によって規制されるだけでなく、企業も自発的に人体や自然に影響の少ない原料や製造方法の研究・開発を進めてきました。また近年においては、男性中心の企業文化や固定的な勤務体系が、女性の社会進出を阻害する要因になっているとして、「女性活躍」のもと多くの企業が女性の管理職登用や柔軟な勤務体系を採用するようになってきています。

 このように「企業活動により生じてしまう社会的マイナスを埋め合わせる」活動は、CSRのひとつの側面であるということができます。「社会的マイナスを埋め合わせる」ためには、自社の事業活動がどのような「社会的マイナス」を生み出しているのかを明確にし、それをいつまでに、どのぐらい減らすのかという計画を立て、改善行動を日常の事業活動の中に組み込んでいくことが必要です。

 一方で、企業の経済活動は多くのプラスも生み出しています。新型コロナウイルスの影響でテレワークを余儀なくされた人々に対して、テレワークを便利に快適にする様々なサービスが登場しているのは、企業が本業によって社会課題を解決している例のひとつです。また太陽光発電施設を作ることなども、経済活動によって社会課題を解決している例といえるでしょう。これらのように、社会課題ではあるけれども十分に大きな市場があり、十分な収益が見込める分野については市場の原理に任せておけば自然と課題は解決されていくと考えられますが、例えば現在のリモート会議システムが聴覚に障害のある方にも使いやすいかというと、ほとんどその点への配慮がなされていないことに気づくでしょう。確かにテレワーカー全体に占める聴覚障害者はごくわずかですし、その機能を追加することは必ずしも収益の拡大にはつながらないでしょう。しかしより多くの社会課題を解決するという観点で考えれば、健常者だけでなく様々な障害を持った人たちにも対応できるシステムを作った方が社会への貢献度は高いといえます。

 このように「企業活動により生じるプラスをより大きくする」活動も、CSRのひとつの側面であるということができます。上の例で注目したいのは、ROIのような投下資本に対する利益率だけを目標に設定してしまうと、障害者に役立つ機能は切り捨てられてしまうということです。企業としてテレワーカーに対して果たす社会的責任の範囲を決め、その範囲へのサービス提供に対してどの程度の収益目標を設定するかという事業設計プロセスをとることで、「本業によるCSR」の実現が可能となります。

 肝心なことは「”良いことをする”のがCSR」という誤った理解によって、自社の理念やビジョンとかけ離れた「見栄えの良い」活動に終始してしまうことがないように、CSRのマネジメントをするということです。CSRに取り組もうとしたとき、ともすれば表題にあるように「何をしようか?」という議論に陥りがちですが、”何をするか”ではなく、”私たちの責任は何か”を議論する文化を社内に育てていくことが必要です。

 これまでの例にもあるように、マイナスを埋めることも、プラスを大きくすることも事業活動の一部である以上、本業を無視したCSRはあり得ません。本業を中心に考えつつ、利益を最大化することだけを目標にするのではなく、そこに必ず社会的責任を加味する経営をするということが、本来的に”CSRに取り組む”ということなのです。

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