真ん中を歩くな。端っこを歩くやつが世の中を変える。

JO

金一グループ会長 坪倉 良和 さん

江森:まずは横浜市長選お疲れ様でした。いまや坪倉さんは「時の人」ですから、何はともあれお話を聴いておかないとと思って伺いました(笑)。市長選立候補してみてどうでした?選挙ってどういうものなんですか?

坪倉:なにしろ政治の素人がひとりで乗り込んでいってるわけじゃない。何年も前からずーっと選挙やってる選挙管理委員会とか、そこに出続けている政治のプロの人はなんとも思わないんだろうけど、素人の立場からしたら普通に考えておかしいだろっていうことがいっぱいあるわけ。たとえば市内4700箇所にある掲示板に、ポスター自分で貼りに行けっていうんだよ!そんなの看板立てる前にボードに印刷しときゃいいだろって思わない?だいたいからしてポスター代ぐらい払ってくれるのかと思ってたのよ。そうしたらそれは後日お支払いします、ただし有効投票数とれたらって言うじゃない。そうすると15万票ぐらいとらないといけないんだよね。ある候補者の人はポスター貼るだけでボランティア100人集めたって言ってたよ。ボランティアって言ったって、タダってわけにいかないからね、まともにやるととんでもなくお金がかかるよね。

江森:得られたものはなんですか。

坪倉:選挙が身近になったということかな。なにしろ身近な人が出てるわけだから、政策に興味をもってくれたりとか、そういう効果はあったと思うな。

江森:民主主義のためにものすごい犠牲を払っていただきまして(笑)。

坪倉:うーん、でも別に犠牲とも思ってないんだよ。人生のやり残しをしたくないっていう思いがあってね、自分の中で行政に文句があり、政治に文句があり、横浜に文句があって、言ってもわかってくれないなら、出るとこ出ちゃおうかってね(笑)。チャレンジではあるけど、もう死ぬってときにあの時言っておけばよかったなと後悔するよりは、なかなか面白かったよねって思いたいじゃない。

江森:会社も3つに分けて後継者づくりをしていると伺いましたが、何か後に残していきたいという思いが出てきたということでしょうか。

坪倉:会社の場合は、いかにたくさんの同じ志をもった人間を育て、それぞれの城を築いてもらうということだけど、選挙の場合はまたちょっと違って、自分が思う不条理だとかおかしいと思うことをなんとか解決できないかという思いから出たことなんだよね。だから自分の中では政治というよりは市民運動に近いかな。

江森:坪倉さんが扱っている「食」というテーマは市民生活への影響という意味でも大切な問題ですよね。現在市場が抱えている問題というのはどういうものでしょうか。

坪倉:ここは横浜市の持ち物であり、横浜市が運営もしているんだけど、税金は使われていないの。ここの運営費はすべて我々が払っている家賃や売上の一部で賄われているわけ。横浜市の職員も一生懸命やっているとは思うけど、やっぱり役所の限界は感じるよね。

江森:最近の流れでは、この手の公共施設の運営は指定管理制度に移行するのが普通だと思うのですが、なぜこれまでできていないのでしょうか。

坪倉:市場の管理なんて誰でもできることじゃないからね。協進印刷さんがはい私やりますって言ったってできるもんじゃない。ということは、市場の仕事や市場の仕組みに精通している組織が請け負う必要があるんだけど、そういう団体がなかった、つまりそれをまとめられるボスがいなかったということだね。

江森:なるほど、そのボスが坪倉さんというわけですね。全国には指定管理で運営している市場はあるのですか。

坪倉:全国で唯一大阪がやってるけど、うまくやってるよ。前に視察に行ったとき、「坪倉さんより前に38箇所の市場が視察に来て、口を揃えて『デメリットはなんですか?』って聞くから、『デメリットはありません!』て答えてきたんだけど、今に至っても誰もやらない」って嘆いてた。「坪倉さんならやってくれそうだから期待してますよ」って言われたよ。

江森:市場の売上は増えてるんですか、減ってるんですか。

坪倉:減ってる減ってる。全盛期に比べたら三分の一ぐらいじゃない?

江森:そんなに?何が原因ですか?

坪倉:まず大手量販店が市場で買わない、いわゆる市場経由率が下がっているというのはひとつの原因だね。もうひとつの悲劇は太田と豊洲という世界最大の市場が近くに2つもあるということだね。横浜のホテルなんかもみんな豊洲だからね。

 だからこそ、もう一度横浜中央市場のミッションというものを見つめ直す必要があると思ってるんだよ。ここがどれだけ社会に貢献できるかということを考えないと社会から信託されないよ。それを日本で一番細胞化して動いているのは俺だって自負してるけどね(笑)。

江森:そのミッションを達成するために市場で取り組んでいることはありますか。

坪倉:食に関する講座をやったり、料理教室をやったりね、いろいろやってることはやってるんだけど、みんな他に仕事もあるし、まあこんなもんでしょうという感じになるよね。市場なんだから毎日でもやればいいと思うんだけどね。そういうところはさっき言った役所の限界を感じるところでもあるよね。

江森:私も印刷組合の理事長やってますから、思いを伝えて、行動に変えていくことの難しさは日々感じています。

坪倉:まあでも、志や大義やビジョンがあってはじめて設計図が成り立つわけだし、市場があるからこそ、夢みたいな設計図だって描けるわけだから、そこは丁寧に伝えるしかないよね。

江森:ぜひ「食べる」ということの意味を多くの人に伝える活動をお願いしたいですね。ウチの会社では定時制高校からのインターン生を受け入れることも多いのですが、彼らの中には家庭に問題を抱えている子も多く、そういう家庭では料理をしない確率が高いんですね。親が自分のために食べ物を作ってくれるという経験は、親の愛情を感じる最もベーシックな経験だと思うのですが、一方でコンビニやファストフードに行けば、そこそこおいしい食べ物がいつでも安く手に入りますよね。ビジネスという観点から見ればニーズがある以上そうなるのは当然のことと理解はできますが、料理をしなくなるということが、社会にとってはとても危険なことのように思えるのです。

坪倉:そういう意味ではコロナは悪いことばかりじゃなくて、食べるってなあに?ということをみんなが考えるきっかけにはなったんじゃないかなと思うな。市場に興味を持ってくれる人も増えて来てるような気がする。

江森:立候補の効果ですかね?(笑)。僕は学校でもっと食育をやって欲しいんですよね。家庭科の授業だけじゃなく。

坪倉:そうだね。給食の時間ももっと長くとってもいいと思うね。俺が小学校に出前授業行くときは給食の時間を狙って行くの。そこで子供と一緒に食べながら、この魚はどこから来たという話から、食べ方の作法まで話をするわけ。だいたい給食なんて、でかいバケツに入れて来て、ひしゃくですくってプラスチックの容器に入れて食べてるわけじゃない。そりゃ栄養的にはそれでいいんだろうけど、あれは食事じゃないよね。同じ料理でも器を変える、箸を変える、盛り付けを変える、それだけで味は変わるんだよ。そういうことを教えなきゃいけない。

江森:そういうことも含めていまの学校教育には心配なことがたくさんありますね。

坪倉:どれだけ学校現場が異端を受け入れられるかだね。学校に行っていつも言うのは、みんなで真ん中歩くなってことなんだよ。日本なんてどんどん沈んでるんだから、みんなで同じところ歩いてたらみんなでダメになるだろ。世の中を変えるのは端っこ歩いてるやつなんだよ。だからどっちか選べって言われたら必ず難しい方を選ぶ。なぜか。難しい方を選んで失敗したってなんにも恥ずかしいことなんてない、だって難しいんだから失敗して当たり前。ただし、いつもベクトルは自分に向ける。そうやって失敗しては考えを繰り返していく人間を育てないといけないんだけど、学校だけじゃなく、行政も政治もみんなで失敗怖がっちゃってるんだよな。

江森:本当ですね。大人がそんなだから子供たちも極端に失敗を恐れるようになってしまうのでしょう。

坪倉:失敗こそが価値なんだし、失敗から得るものがある人生の方が楽しいしね。最終的には生まれてきて良かったなと思える人生をどれだけの人が歩めるかということだと思うね。

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