自分で自分の人生を経営できる自立した生き方を応援したい

  • 2019年10月26日
  • 2020年12月7日
  • JO対談

NPO法人ETIC. 横浜ブランチ  代表 田中多恵さん

江森:田中さんはNPOで働いているわけですが、どのような経緯でこの仕事をするようになったのですか。

田中:ETIC.との出会いは大学生のときです。私はいわゆるごく普通の大学生で、最初からNPOに興味があったということではなかったのですが、たまたま姉が「おもしろそうなのがあるから行ってみれば?」とETIC.が主催する「長野県の旅館の活性化プロジェクト」というインターンシッププログラムを教えてくれて、まあヒマだったし、ただで旅行いけるからいいか、みたいな感じで参加したのが最初です。

江森:それでそのままETIC.に?

田中:いえ、一度リクルートに就職しました。長野の旅館でのインターンシップを通じて、旅館にしても地域にしても、活性化の鍵は「人」であることを学んだことによって、ひとり一人のリーダーシップや、地域や組織への愛着によって、全体が活性化していくということを自分の生涯のテーマにしようと思ったのです。それをいつか地域の中で実践するための修行の場として、リクルートで勉強させてもらうことにしました。

江森:何年いたんですか。

田中:4年です。リクルートでの仕事は企業の採用や研修のサポートだったのですが、その中で3年目研修で目が死んでる人や、上司からのパワハラで苦しんでいる人をたくさん見てきました。そのとき大学時代の生き方選びというか、自分にあったカルチャーを見分けるための嗅覚のあるなしで、人生がまったく変わってきてしまうと感じて、大学生、もっといえば高校生や中学生ぐらいのときに、自分の価値観の軸を持てるようにサポートしてくことを仕事にしたいと思ってETIC.に転職しました。

江森:そうなんですか。田中さんとは起業支援とかキャリア教育の現場でお会いすることが多いので、「起業させるぞ!」みたいな情熱を持っている人なのかと思ってました(笑)。

田中:起業もひとつの手段だと思いますが、広い意味でのアントレプレナーシップとか、自分の人生のオーナーシップが大事だと思っていて、決して起業だけを促したいわけではないんです。自分の人生を誰かに委ねたりせず、自分で自分の人生を経営できる自立した生き方の、ひとつの象徴的な形が起業ということだと思います。ETIC.にも起業支援を通じて経済を活性化することをメインに活動しているチームもありますが、私はどちらかというと人の成長みたいなところに軸足がありますね。

江森:メーカーや銀行ではなく、人とか地域とか、そういうことに関わる仕事に関心のある若者は増えていると感じますか。

田中:私たちの世代がちょうど走りだったと思いますが、Uターン、Iターンとか、故郷のない若者が故郷を求めるとか、ふるさと納税なども含めて、地域への関心は高まっていると思いますね。

江森:その割には田中さんが言うように、自分の人生を他人に委ねちゃうような若者が日本には多いように感じますが、そうなってしまった原因はなんだと思いますか。

田中:生活に困っていないからというのはあると思いますね。マズローの欲求5段階説でいうと、下の方の生理的欲求や安全欲求は、自分で求めなくてもすでに保証されているので、多くの若者が自己実現などの上位欲求をもって学生生活を送っているのです。大学でも最先端のことを教えますので、若者たちは実際の社会もそうなっていると思い込んでいます。ところが就職して現場に出ると、パワハラとまでいかなくても、急に心理的安全性が脅かされて、安全欲求みたいなものをつきつけられるわけです。それで壊れちゃうとか逃げちゃうということになるのではないかと思います。

江森:なるほど、わかりやすい説明ですね。でも採用のときには企業側も「あなたはこの会社で何を実現したいのか」ぐらいのことを訊いたりしますよね。

田中:そうですね。人事と現場が乖離しているという現象は大企業になればなるほど顕著だと思います。人事は若者のことを研究していて、若者をターゲットにしたマーケティングで採用活動をしていますが、現場はまったく違う旧態依然とした理屈で動いていたりしますからね。

江森:一概に若者が悪いとか企業が悪いとか言い切れる問題ではありませんが、どうもちぐはぐでいけませんね。そんな中、来年には小学校の、再来年には中学校の新しい学習指導要領が実施されますし、大学入試でもセンター試験に代わる新しい試験が実施されます。期待度はどうでしょうか。

田中:大学入試改革には一定の効果はあると思いますね。やはり高校生は大学入試を目指して勉強しますから、試験で求められることが変わるということは、生徒や保護者に向けたメッセージにはなると思います。

また、小学校からの学習や活動の記録をカルテのように引き継ぎながら残していくという取り組みも始まっており、文科省では「キャリア・パスポート」として普及に力を入れています。子供たちが自分の進路や生き方について考えることを、教師や学校がサポートする体制が整備されつつあり、新しい学習指導要領にも明記されています。基本的には紙ベースですが、一部の私立などではデータベース化して管理している学校もあり、すでにAO入試などで活用されているようです。

江森:それはいいですね。未だ紙ベースというのが気になりますが、生涯学習の記録を個人ごとに管理できるようになれば、進学だけでなく大人になってからのキャリア形成にとても役に立つと思います。そういうことは是非国をあげて仕組みづくりをして欲しいですね。

田中:実は文科省の若手職員の人たちと、全国の「教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム」というのをやっているんです。全国の志ある教育長・学校長がそれこそ交通費も参加費も全部自費で集まって、年に2回合宿をやっているのですが、その事務局を文科省の若手キャリア官僚の人たちとETIC.が共同でやっています。実は公立でも学校長の権限は結構大きくて、校則を無くすとか、定期テストをやめるとか、できちゃうんですよね。そういう飛び抜けた事例を集めて参考にして欲しいと考えています。ただ都心の学校と離島の学校では教育のやり方は全然違うわけで、霞ケ関からトップダウンで落とすのではなく、その地域のことをよく知っている学校長が、自らのリーダーシップで変えていくのが一番いいと思っています。

江森:やっぱり学校長のリーダーシップで変わりますよね。

田中:そうですね。うまくいっている学校のマネジメントを見ると、若手の先生が思ったことを言える環境があるというか、誰かが決めてそれに従うというのではなく、自分たちで作っていけるという雰囲気をうまく作っているなという印象がありますね。学習指導要領というのはひとつのメッセージであって、それをどう解釈してその地域の子供たちに活かしていくかということが求められているのではないでしょうか。

江森:学校ごとのビジョンづくりみたいなことでしょうか。

田中:そうですね。ただこれまでのような「たくましい子」みたいなことではなく(笑)、より具体的に作って、先生たちに浸透させていけるかということですね。

江森:ビジョンを示して浸透させる。企業のマネジメントと同じことですよね。

田中:そう思います。教室の中も同じことで、これまでは教員が子供たちを支配するという構造があったと思うのですが、これだけインターネットが発達している時代になると、先生が知らないことを生徒が知っているのも当たり前だと思うんです。担任が全知全能なのではなく、子供たちのやる気や能力を引き出す存在になって欲しいですね。それは学校のマネジメントもそうですし、中央官庁と地方自治体の関係などもそうだと思いますが、誰かが決めたことに依存する体質からの脱却が、日本全体で起こってほしいと思っています。

江森:すべてに通じますね。つまるところ、ひとり一人が自立することが大事ということですね。横浜では、私も田中さんと一緒に当初から関わっている「はまっ子未来カンパニープロジェクト」があって、これも子供たちに自立を促していくためのプログラムなわけですが、うまくいっていると思いますか。

田中:はまっ子未来カンパニープロジェクトは、とても実践的で先進的な取り組みだと思いますね。学校貢献・地域貢献・商品開発という3つのカテゴリーがあるのですが、学校貢献で参加する学校が多いのが少し気になります。このプログラムは社会と関わることに意味があると思うので、内向きになってしまうのは残念です。また、中学校があまり積極的でないのも心配です。教科担任とクラス担任が分かれてしまうとか、総合の時間が修学旅行等に割り当てられてしまい、ほとんど空き時間がないとか、難しい理由はわかるんですけど、中学校にももっと活用して欲しいですね。

江森:これからの夢や目標についておしえてください。

田中:これまでもお話ししたように、個人の可能性が引き出されることによって、組織が変わっていく現場に立ち会えることにワクワクするので、それは引き続きやっていきたいです。また私自身に子供が生まれたことが転機になって、この5年ぐらいはキャリア教育などの子供の育ちに関心が高まってきたので、教育と地域との関わりというところも、大事な領域として携わっていきたいと思います。

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