株式会社 Stock Base 関 芳実さん・菊原美里さん
江森:お二人は現役の大学生でありながら、昨年株式会社を設立して起業したということですが、どんなビジネスで起業したのですか。
菊原:企業の災害備蓄品を廃棄せずに有効活用するための、寄付先のマッチング事業をしています。賞味期限間近になった非常食などの備蓄品を、子ども食堂やフードバンクなど食支援をしている団体とマッチングしています。食品の他にも余ってしまったボールペンやクリアファイルなどのノベルティも扱っています。
江森:どこでお金にするんですか。
菊原:企業さんとしても賞味期限切れの食品は廃棄せざるを得ないので、廃棄費用がかかります。同じ費用をかけるなら寄付のために使っていただこうと、寄付先マッチングのための手数料と配送料を負担していただいています。その手数料が私たちの収益になります。
江森:なるほど、それは社会的にも意義のある仕事ですね。在学中に起業するというのもすごいというか思い切ったなと感じますが、「起業プランニング論」という授業を受けたことがきっかけとききました。
関:授業やその後出場したビジネスコンテストを通じて、企業が抱える災害備蓄品廃棄の問題や、地域での食支援の課題を知りました。ビジネスコンテストでは外部の方から高い評価をいただくことができてうれしかったのですが、同時にただのアイデアで終わってしまっていいのかな、優勝して終わりじゃないよなと思うようになりました。これは負けず嫌いな私たちの性格もあると思いますが、まずはこのサービスを世に出して目の前の課題を解決したいという思いで、起業というよりまずは事業化することを決めました。企業との取引になるので、こちらも企業として対等にできた方が良いかなと思ったので、会社を設立することにしました。
江森:会社を作るというよりはプロジェクト色が強いんですかね。
菊原:もともとプロジェクトベースで進めていたことですし、それを継続する手段が起業だったということですね。そもそも自分の人生の中で起業なんて考えてもいなかったし、全然興味なかったですから(笑)。
江森:そうなの?お父さんの影響とかじゃないの?
菊原:全然ないです。普通に就活してみんなと一緒に卒業してっていう未来しか考えてなかったです。
江森:最初からこの2人でやっていこうと決めていたのですか?
関:もともと5人のグループでやってたんですが、事業化にあたって引き続きやっていくかどうかをそれぞれが考えて、たまたま残ったのがこの2人だったんです。
江森:ひとりしか残らなかったらどうでした?やめてた?
菊原:やめてたというより始まらなかったと思いますね(笑)
関:進まなかったよね。2分の1倍速ぐらい?(笑)
始めた当時は名刺の渡し方とか請求書の書き方とか、とにかく社会人としてのスキルが何ひとつなくて、教授に教えていただいたり、ネットで調べたりして覚えていきましたけど、2人だったからなんとかなったところもあると思います。
江森:日本ではずっと前から起業家教育が必要だということで政策的にもいろいろやっているわけですが、とてもうまくいっているとはいえない状況です。どうしたらいいと思いますか。
関:個人的には起業家教育よりは、課題の設定と解決策を自分で考えて発信できるような人がたくさん必要なんじゃないかと思いますね。私たちも会社を大きくするというよりも、この事業をいかに持続させるかということを大事にしているので、会社にこだわる必要あるのかなとは思います。
菊原:これは起業してみてわかったことですが、終身雇用制度の中で、どこかの企業に入れば一生安泰と思うことが衰退につながっているのではないかと思います。私たちはバブルを知りませんが、バブルの頃だったら学歴とか関係なく稼げる人は稼いでいたと思うのですが、今は溜め込む経済になってしまっていて、 最初に就職した先でいくらの給料がもらえるかで生活の基準がきまってしまうので、そこを取りに行くために受験を乗り越えるんだということしか知らされていないというか…。他にも成功する方法があるんだということを知らないんだと思います。バブルみたいな時代になったらみんな起業すると思いますよ。
江森:では少しビジネスの話をしたいと思いますが、フードロスをなくそうというようなことは、SDGsの目標にもなっているので、世界的にニーズが高いのは間違いないわけですが、一方でいわゆる「静脈ビジネス」というかいらないものをどう再利用していくかという点では課題も多くて、お二人も日々課題を感じているのではないかと思いますが、いかがですか。
関:企業から見ると廃棄するはずだったものが有効活用されて良かったということになるのですが、もらった側からすると、自分は備蓄品をもらうほど貧困なんだということを再認識してしまうという課題があります。私たちのサービスはホームページ上に提供可能な物品を掲示して、欲しいものを選んでもらうシステムになっているので、いらないものを押し付けるようなことにはならないのですが、それでも普通は「食べない」のが前提である備蓄食をもらうことに対する抵抗はあると思います。
江森:なるほど。一方で本当に支援が必要な子どもはなかなか子ども食堂に来ないという課題もよく聞きますが、そのあたりはどうですか。
関:確かにそれは良く聞きますね。でもそれが子ども食堂であって、間口を広くして誰でも来られるようにすることが大事と考えて、みなさん運営されているようです。子ども食堂で飢えを凌ぐということではなくて、食事や何か渡せるものを介して相談してもらう、本音を言ってもらう、そういうコミュニケーションのツールなんですね。ただ、渡すものが備蓄食だったりすると、気を悪くされてしまって逆効果になることもあるということですよね。
江森:企業側の課題はどうですか。
菊原:これは企業側というより入口における私たちの課題なのですが、いまのビジネスモデルでは、企業さんは物品を提供して、配送費も出して、さらに私たちにマッチング手数料を支払うことになるので、もともと捨てるはずだったものに対するコストとして納得感が薄いというのが、寄付が進まない理由のひとつになっていると感じています。
江森:確かにねえ、社員に配ったりすれば捨てる費用もかからないからね。
菊原:でも社員さんも、もらっても困るという意見も多いようなので、いらないものを押し付けあっているぐらいなら、こういう方法もありますよということをもっと伝えていかなければならないと思っています。
江森:そもそも企業の防災意識というか、企業防災の課題として感じることはありますか。
菊原:多くの企業が非常食を備蓄してはいるのですが、ほとんど持っているだけというか、福利厚生のアピールのためだけにストックしているような気がします。スペースの問題などもあって、災害時の極限状態のときに本当にこれを食べられるのかなと思うような備蓄食も多いんですね。もうそろそろただ置いておくだけの備蓄はやめた方がいいんじゃないかと思っています。
関:災害時に食べておいしいものは普段食べてもおいしいんだと思うんですよね。だから非常食というよりは、普通の食として備蓄食を考えて欲しいなと思います。いずれは入口からコントロールできるようなビジネスモデルも考えているのですが、そのときには出口で必要とされるものだけを揃えたStockBaseブランドの備蓄品を作っていきたいと考えています。
江森:企業がとりあえず〝ポーズ〟で災害備蓄をしているというのは、まったくその通りだと思います。本当に災害が起こったとき何が必要なのかということを本質的に考えるべきですね。私も含め(笑)。
最後に今後の抱負をきかせてください。
関:廃棄はシステムが確立されているので簡単に産廃業者に依頼できますが、寄付はシステムが確立されていません。寄付という行為が廃棄と並ぶ選択肢になるような、寄付が文化として定着するような社会を目指していきたいです。
菊原:モノを循環させるとかフードロスをなくすとか合理的な理由はあるんですけど、それよりは、困っている人がいてそれをなんとかしてあげたいと思ったときに、その思いをつなげられるサービスにしていきたいと思っています。そのためにも会社が持続可能であることが必要なので、もっとしっかり稼いでいきたいと思います。