Scope3 カテゴリ1「購入した製品・サービス」の算定について

前回はScope3の概要について解説を行いました。Scope3は算定対象が多岐にわたるため15のカテゴリに分けられ、またサプライチェーンでの排出を対象としているため他社の排出量を算定する必要があり、実数の把握がきわめて困難だというものでした。そこで購入金額や購入量に係数をかけることで算定を行う仕組みがあり、これを使うことでおおよその排出量の算定が行えるというものです。今回はその中からカテゴリ1の「購入した製品・サービス」について紹介します。

カテゴリ1「購入した製品・サービス」の概要

まずはカテゴリ1「購入した製品・サービス」について、その概要を紹介します。まず最初に簡潔に定義づけを行うとすると、「自社が購入・取得したすべての製品及びサービスの資源採取段階から製造段階までの排出量」です。

当然何かの製品が作られる過程では、自動車等で化石燃料を使用であったり、あるいは電気で動く機械類の使用であったり、必ず温室効果ガスの発生があります。企業が何かのモノやサービスを購入するということは企業活動の一環ですので、そのモノやサービスが生み出される過程における温室効果ガスの排出は、生産している企業のみならず、購入する企業にとっても責任があると解釈されます。このカテゴリ1「購入した製品・サービス」では、まさにこういったものを対象としています。

このカテゴリ1「購入した製品・サービス」でのポイントとしては、大きく2つのポイントが挙げられるでしょう。

  1. 自社が購入した「すべて」の製品・サービスが対象である。
  2. 購入した製品・サービスの資源採取に始まり、中間の物流も含めた最終製品完成までのすべての過程の合計の排出量を対象としている。

まず1つ目の、自社が購入した「すべて」の製品・サービスが対象であるという点については、つまり企業として購入しているものを「すべて」洗い出して算定対象とせよ、ということになります。例えば自社で製造している製品の部品など、直接自社が販売している製品との関連のあるものだけでなく、クリップやコピー用紙などの事務用品やトイレットペーパーなどもすべて含めて考える必要があるのです。また意外と盲点なのは、ソフトウェアやクラウドサービスなども算定の対象になるということです。これらのサービスが成立するためにも、電気が使用されているので排出対象として見なければいけません。
なおScope3の他のカテゴリに該当するものについては、該当のカテゴリとして算定し、このカテゴリ1の算定には含みません。例えば機械や自動車など、財務会計上固定資産として取り扱われるものはカテゴリ2、また客先に納品するために運送会社に委託した場合、これはサービスを購入したと解釈することはできますが、カテゴリ4の「輸送・配送(上流)」として算定するなどがあります。(この2つのカテゴリ以外も該当するものはあります)

2つ目のポイントについては、購入した製品が作られる時の排出のみならず、資源採取の段階からすべて考える必要があるということです。サプライチェーンの考え方では、例えば部品を買ったとして、部品を製造する過程での温室効果ガス排出を考えるのは当然のこと、その部品の原材料資源の調達まで遡って考える必要があります。そしてカテゴリ1では購入した製品・サービスが最終製品の形になるまでの、上流のすべての過程を含んで考えます。よって、例えば資源の調達をする会社から原材料として精製する会社、そして部品を作る会社のように、中間の輸送が行われることも多くあるでしょう。
この間の輸送による温室効果ガスの排出も、カテゴリ1での一連の排出の中に含まれるのです。まさに購入した製品・サービスが作られるまでの上流のサプライチェーン排出が、すべてこのカテゴリ1として割り当てられているということです。

カテゴリ1「購入した製品・サービス」の排出量算定方法

カテゴリ1の排出量の算定方法には、2つの方法があります。

  1. 自社が購入した製品・サービスを、資源採取段階から製造段階までの排出量をサプライヤーごとに把握し、積み上げて算定する方法
  2. 自社が購入した製品・サービスの物量・金額データに製品・サービスごとの排出原単位をかけて算定する方法

1つ目の方法は、要するに地道にすべて調べ上げて算出するという方法です。この方法は比較的精度の高い排出量の算定が可能ですが、現実的に算定が行えないケースが多く発生します。例えば文字打ち作業を委託するなど、それ以上上流にサプライヤーがほとんどいないというケースならまだ調査する余地はあるかもしれませんが、資源採取の段階まで遡ってそのすべてのサプライヤーの排出量を調べるというような場合では、ほとんど不可能と言っていいでしょう。

そこで2つ目の、排出源単位を用いて算定する方法が存在します。この方法では自社が購入した金額や物量に、各製品・サービスごとに割り当てられている排出源単位をかけることで温室効果ガスの排出量の概算値を算定することができます。排出源単位は環境省の排出源単位データベースにまとめられています。
カテゴリ1の場合排出の主体は他社ですので、実数値を調査することに大きなハードルが伴いますが、排出源単位を用いる情報なら、自社内で必要なデータを取り揃えることができるので、根気があれば算定すること自体は可能です。(会社として購入しているものをピックアップし、排出源単位と購入量を調べて計算するというのも非常に大変な作業なのは間違いありませんが…)

また排出源単位を用いた算定方法の便利なポイントとしては、排出源単位自体が資源採取段階から製造段階までのすべての排出量を加味した上で設定されているという点です。要するに、購入金額・物量に排出源単位をかけるだけでカテゴリ1の用件を満たすことができ、資源採取段階、中間の物流、製造段階…と分解して考える必要がないということです。

ただし、排出源単位を用いて算定する場合でも押さえておきたいポイントもあります。1つはあくまでも概算値であるということ。排出源単位は各業界ごとの標準的な数値ですので、厳密な数値を出すことはできません。
そしてより重要なもう1つのポイントとして、削減策を立てづらいというポイントが挙げられます。排出源単位を用いた場合、排出量は、【購入金額・物量 × 排出源単位 = 温室効果ガス排出量】という式で洗わせます。排出源単位はデータベースに記載されている数値で固定値ですから、排出量を減らそうと思ったら、購入金額・物量を減らすしかありません。
しかし企業として何かモノやサービスを購入するということは、基本的には必要だから行われているはずです。するとこれを減らすということは、企業としての生産性を下げるということになりますので、現実的ではなく、よって削減策を立てることが非常に難しい、ということになります。
もちろんこの結果無駄遣いが明らかになって、それを減らすことで排出量も減らせるというケースもあるかもしれませんが、稀なケースでしょう。

まとめ

以上、Scope3 カテゴリ1「購入した製品・サービス」についてご紹介しました。Scope3のカテゴリの中でも一番最初にくるだけあって、そのボリュームがきわめて大きくなりがちなのが、このカテゴリ1の特徴です。そのためまずは項目のピックアップをどのようにして行うのかというところが大きなポイントと言えるでしょう。
算定にあたっては、実際の数値を調査することは非常に困難なため、排出源単位を使用するケースが多くなるでしょう。しかし排出源単位を用いた算定では特に削減策を立てづらいため、現状の把握にとどまってしまうケースが多くなります。どのポイントが排出量が多いのかを知るだけでも大きな意味はありますが、実際に削減に向けた取り組みにつなげやすくするためにも、実数値の算定ができないか、方法を模索するということも重要です。

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