Scope3の排出量算定はどのように考えるか

サプライチェーンでの温室効果ガス排出量を算定するための指標である、Scopeについて、これまで別の記事で紹介してきました。

Scopeとは? 温室効果ガス・CO2排出量について

Scope1の排出量算定方法について

Scope2の排出量算定方法について

今回は最後の区分である、Scope3についてご紹介します。

まずはじめに、Scope3の対象範囲についてご紹介します。Scope3は、「Scope1、Scope2以外の間接排出」として定義することができます。つまりScope1とScope2の対象に含まれないサプライチェーン上の排出すべてがScope3ということになります。

サプライチェーンという言葉についても、念の為ここで復習しておきましょう。サプライチェーンとは、原材料の調達から製造、物流、使用、そして廃棄にいたるまでの一連の過程のことを言います。ある製品が生まれてからなくなるまでのすべての過程ということです。そしてそのサプライチェーンの中で発生する温室効果ガスを、サプライチェーン排出と呼ぶわけです。
例えば自動車メーカーA社があるとします。この時A社の自社工場での自動車製造に伴う温室効果ガス排出が算定対象となるのは当然として、さらに自動車の部品の購入先であるB社での、部品の製造工程での温室効果ガス排出や、販売した後に消費者が自動車を使用することで発生する排気ガスなどもサプライチェーンの一部ということで、温室効果ガス排出量の算定対象となるのです。

またサプライチェーンは、含まれる範囲が原材料産出から廃棄までと非常に広い範囲にわたっているため、さらに細かく15のカテゴリーに分かれています。

Scope3の15のカテゴリー

1.購⼊した製品・サービス9.輸送、配送(下流)
2.資本財10.販売した製品の加⼯
3.Scope1,2に含まれない 燃料及びエネルギー活動11.販売した製品の使⽤
4.輸送、配送(上流)12.販売した製品の廃棄
5.事業から出る廃棄物13.リース資産(下流)
6.出張14.フランチャイズ
7.雇⽤者の通勤15.投資
8.リース資産(上流)その他(任意)

Scope3の排出量算定については、2024年現在、多くの企業にとって非常に困難なものとなっています。理由としてはその算定範囲がサプライチェーンの全域に及ぶことにより、以下の2つの課題が生じるからです。

①全体像の把握が困難

まず1つにサプライチェーン排出の全体像の把握が困難であるということが挙げられます。企業が自社のサービスを成立させるためには他の企業との関係が不可欠です。しかし関与する企業が増えれば増えるほどサプライチェーンの範囲も拡大するため、それだけ全体像を明らかにする難易度が上がってしまいます。サプライチェーンは原材料まで追跡する必要がありますから、まさに鼠算的に算定対象が膨れ上がってしまいます。

②データ収集が困難

次にデータ収集が困難という点です。そもそも全体像を明らかにすることも非常に難しいため、データ収集が困難であるという点も当然あります。さらに仮にサプライヤーをすべて特定したとしても、必ずしも求めるデータを得られるとは限りません。温室効果ガスの排出量算定はまだすべての企業が当たり前に取り組んでいるというわけはありません。温室効果ガスの排出量のデータを出してほしいと要請しても、出せるデータがないというケースも多いでしょう。

以上の理由から、Scope3の算定にはデータ収集に大きな課題があり、算定することは非常に困難であることがわかります。しかしデータが集まらないから算定できません、ということになってしまうと、いつまで経ってもScope3の算定を行うことができなくなってしまいます。そこで、Scope3においても、Scope1やScope2と同様に、データベースや係数を用いることで疑似的に算定を行うことができるような仕組みが存在します。

環境省が公表しているデータベースを使用することで、疑似的に温室効果ガスの排出量を算定することができます。算定はScope3の各カテゴリーごとに行い、最終的にそれぞれのカテゴリーの排出量を合計することで、Scope3全体の排出量を算定します。
カテゴリーごとに数値や数式は少しずつ異なりますが、基本的には自社が購入・使用した金額や物量などに、係数を掛け合わせることで排出量の算定を行うことができるので、この方法であれば自社で集められる数値だけでScope3の算定を行うことが可能です。

データベースでの算定の注意点

他社に温室効果ガスの排出量を提出してもうことなく、自社で算定を完結できるのであれば、データベースを用いた算定をすれば問題は解決するのではないかと思われますが、データベースでの算定にも注意するべきポイントが存在ます。

i.現実の数値とは乖離がある可能性がある

データベースの数値は業界の標準値によって導出されているため、この数値を使用して算定した排出量と実際に生じている排出量とでは乖離がある可能性があります。そのため最終的に導かれるサプライチェーン上の課題も、正確ではない可能性が伴ってしまいます。

ii.削減策を講じることが難しい

データベースを使用した算定を行う場合、基本的には【係数 × 使用量or金額】という数式の構図になります。係数は各カテゴリーや品目ごとに固定なので、そもそもの品目を変えたりしない限りは変わることはありません。
とすると減らすことができるのは使用量や金額の部分です。しかしこの部分についても、基本的には事業の運営上必要だから生じているケースがほとんどですので、削減できる量は限定的と言えるでしょう。もしこの算定を行うことで無駄が洗い出されて削減できた、という場合はむしろラッキーです。
反対にもし実際の数値から算定を行う場合は、さらに具体的にどの工程・箇所で排出量が多くなっているかまで追跡を行うことができるので削減策も具体的に設定が行えます。

以上、Scope3とその算定について見てきました。まとめると、

  • 実際の算定は精度が高いが実施が困難である
  • データベースを使用する算定は実施しやすいが精度が低く、削減策に結びつけづらい

となります。どちらも課題があり、どうすればいいのかわかりませんね。

現実的な話をすれば、実際の数値をサプライチェーン上の企業に出してもらうというのは容易なことではありませんので、おおよそのボリューム感の把握や、自社のサプライチェーン排出の全体像を明らかにするという目的で、データベースを使用した排出量算定にまずは取り組む、ということになるでしょう。

ただやはり、本質的に地球環境の持続可能性を目指していくためには、実際の数値を測定し算定が行われること。そしてその結果をもとに適切な削減策が実施されることが必要です。ゆえにサプライチェーン上の企業間で密接に協力しあってサプライチェーン排出量の算定・削減を行える体制構築が行われていく必要があるでしょう。

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