第一話では「書体」と「フォント」の違いについてお話しましたが、今回はこれまたまぎらわしい「字体」と「字形」です。
「字体」とは、例えば「言」は、〈ちょんの下に横棒三本、その下に横長の長方形〉というような文字の形に関する概念のことです。それを形に表したのが「字形」です。意味不明ですね(笑)。例えば、「言」という字の一番上の〈ちょん〉を、斜め45度に書く人もいれば、垂直に書く人もいますが、これは「字形」の違い。どちらも「字体」は同じです。
「字体」の違いとして代表的なのは「旧字」。「総」と「總」は同じ文字(字種)でも字体が違います。一方、「総」と「総」は字形が違うだけで字体は同じです。
私たちの日々の仕事では、コンピュータで出てこない文字をお客様から指定されて、オーダーメイドで作字することがしばしばあります。「髙𣘺さん」や「栁さん」は最近のフォントには収録されているので問題ないのですが、近頃多いのが鈴木さんの「鈴」の字のつくりが「令」であるとか「令」であるとかいう主張です。これは新元号発表の記者会見で菅官房長官が掲げた令和の「令」の字の影響ではないかと想像しますが、これまでは明朝体やゴシック体など、いわゆる活字体では「令」、楷書体などの筆記体では「令」という字形になるのが慣例だったので、楷書体で「令」や、明朝体で「令」という字形の文字はコンピュータフォントには収録されていないのです。
現在、アドビシステムズ社の規格で最も収録数の多い「Pr6」は2万3058字。ひと昔前は8千字程度だったので、これでもずいぶん楽になりましたが、戸籍上日本人の氏に使える文字は5万5271字。印刷会社が作字作業から解放される日はまだまだ遠そうです。