「人権デューデリジェンス」政府調達で優遇へ

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取引先に対して人権侵害の状況を調査し、サプライチェーン全体で強制労働や児童労働などの排除を目指す「人権デューデリジェンス」は、欧州で先行していましたが、10月に開催された省庁横断の「ビジネスと人権に関する関係府省庁連絡会議」において、政府調達に関する作業部会が設置されることが決まり、今後日本でも企業における人権尊重の動きが加速していく第一歩になると考えられています。
政府案では、企業の基本的な考え方を明記した「人権方針」の策定と公表のほか、相談窓口の設置や取り組み状況の公表などを実施している企業を、入札時の評価で加点することが検討されており、各省庁で実験的な事業を始め、進捗を踏まえながら方針を策定していくとのことです。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」は、政府調達で人権尊重を促進することは国家の義務だと明記していますが、日本では政府調達での人権尊重に関する明確な基準はありません。
企業や自治体が、社会的責任に配慮した調達を実施する「SR(社会的責任)調達」は、SDGsの推進やより良い社会に向けての重要なファクターになると期待されています。日本においてはプラチナくるみん認定での優遇や、一部自治体において独自の優遇制度や参加資格制限などがあるものの、一般的な取り組みには至っていません。
今年3月、自民党の有志議員による「政府調達研究会」が長期の購入契約など戦略的な政府調達を通じて国内企業の開発を支援するよう訴える提言を岸田総理に提出したこともあり、調達を政策実現の手段として用いることについての検討は従前からなされていたと考えられます。温暖化対策では世界に遅れをとっている我が国にとっては、人権分野で欧米に追いつきたいという思惑があるようにもうかがえますので、企業としては自社内のみならず、サプライチェーン全体での取り組みの強化を図っていく必要がありそうです。
当社が所属する全日本印刷工業組合連合会では、環境印刷やメディア・ユニバーサルデザインなどの分野において、行政と民間企業が同じ目的意識をもって社会課題解決に向けて協働していくためのSR調達の実現を、国会および全国の自治体に向けて提言しています。今年2月には和歌山市において「SDGsの視点から見た調達の将来像」と題したシンポジウムを開催。9月に名古屋市において開催された「全印工連CSRサミット」においてもSR調達に関する分科会を設けて啓発に努めています。

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