スローレーベルは、成長というより進化なんです。

  • 2013年10月21日
  • 2020年12月26日
  • JO対談

スローレーベル ディレクター 栗栖良依さん

今回は特別企画として、アーティストやデザイナーと企業や福祉施設などを繋げ、新しいモノづくりとコトづくりに取り組むプロジェクト「スローレーベル」のディレクター栗栖良依さんと、株式会社協進印刷代表取締役江森克治とのクロス対談を2号にわたってお届けします。

江森:まず初めに「スローレーベル」が誕生した経緯について伺いたいのですが。

栗栖:もともとは株式会社ワコールアートセンターが推進してきた「ランデヴープロジェクト」が、象の鼻テラスのオープンとともに横浜でスタートしたのが出発点です。当初は企業を対象にしていたのですが、たまたま交流会に参加していた福祉作業所の方が手をあげてくださったことで、障がい者の方々との交流が始まりました。

江森:福祉作業所もモノづくり拠点の一つと考えたということですね。

栗栖:これまでは企業やプロの職人さんとのランデヴーだったので、どちらかといえばマスプロダクション(大量生産)に近いモノづくりだったのですが、福祉作業所では「手のモノづくり」が展開されているわけです。マスプロダクションが同じ色同じ形のものを大量に効率良く作ることに優れているのに対して、福祉作業所ではひとつ一つ色や形を変えることができる。これはもしかして大きな可能性があるのではないかと思ったのです。ならば、その特徴をより際立たせる形でレーベル化しようということでスローレーベルが誕生しました。

江森:そこで「マスプロダクションからスローマニュファクチャリングへ」というコンセプトが生まれてくるわけですね。従来の製造業の発想と正反対ですが、スローなモノづくりが必要だ、あるいは有効だと考えた裏にある社会的背景とは、どのようなものなのでしょうか。

栗栖:いま色々なことが行き詰まっている中で、そもそも「マス(大量)」という考え方そのものに行き詰まりがあると思うんですね。これから人口だって増えることはないし、コンパクトシティとかコンパクトカーとか、世の中がコンパクト化していく中で、モノづくりの考え方も変わらざるを得ないと思うのです。

江森:しかし社会的に有意義であるとわかっていても手作りの商品は当然値段が高くなるわけですよね。スローマニュファクチャリングが根付くには消費者側にもそれなりの意識が芽生えないといけないと思いますが。

栗栖:手作りといっても熟練の職人さんが作る工芸品とは違うわけです。でもマスとも違う。これまでにない中間的な存在なのでマーケットもあるようなないような…。震災以降「エシカル(倫理的な)」という言葉も流行っているように、百貨店なども理解は示してくれるようになってはいますが、まだまだ過渡期なので販売の難しさはあります。流通の仕組みもマスプロダクトが前提になっているので、消費者の理解もそうですが、その一歩手前の流通や小売りの理解も求めていかなければいけないと思っています。

江森:スローレーベルではワークショップのイベントもたくさん開催していますね。

栗栖:消費者ひとり一人の中に「自分も作る側にまわりたい」というモチベーションが非常に高くなっていると感じます。今までは安く買ってすぐ捨ててということをやっていた消費者が、「こんなこと続けてちゃいけないよね」と漠然と感じていたり、ある意味では買うこと自体に飽きてきていたり、理由は色々あると思いますが、自分も手を動かして何かを作りたいという衝動に駆られている気がしますね。そういう意味では社会的弱者が作った商品を買ってくださいというよりも、一緒に作りましょうよというプロジェクトにシフトしてくことに価値があるようにも思います。でもスローレーベルとしては、それが趣味や手芸と同じでは意味がない。ここが難しいところですね。

江森:職人ワザでもなく手芸でもなく、それでいて経済的価値も作っていこうというのですから、とても難しい課題へのチャレンジですね。

栗栖:自分でもそう思います(笑)。福祉作業所にも、元々手先が器用な方や、同じ視覚障がいでも少し見えている方もいて、やっぱりそういう方は作業も上手なので数人に仕事が集中するという現象が起こります。でもそれだとやっぱり目が見えるにこしたことはないよねというようなところに戻ってしまって、意味がないというか、そうじゃない発想のモノづくりができないかなと思っています。

江森:それでは本当の意味でのユニバーサルではないということですか。

栗栖:そういうことがあって最近取り組み始めたのは、アーティストにプロダクトをデザインしてもらうのではなくて、製法とか道具とか、身体が不自由な人でも上手に作れる方法を見出すことにアーティストの創造性を発揮してもうということです。それによって障がい者が素敵な製品を作れるということになれば、新しいモノづくりへの一歩になるのではないかと。

江森:近代社会が作ってきた経済合理主義というのは、実に良く出来た仕組みなんですよね。これに代わるものがなかなか作れない。

栗栖:それはすごく思います。スローマニュファクチャリングやっていると、「だからマスプロダクションなんだよな、かなわないな〜」と思うことばかりです(笑)。

江森:しかしそれだけでは決してこれ以上成長できない。だからこそ、そこにアーティストとかクリエイターと呼ばれる人たちの存在意義があるということでしょうか。

栗栖:そうですね。私は「よそもの」であることに意味があると思っています。多くの場合、その業界や企業の中にある成功事例を検証しながら、次にどうしようかということを考えているのだと思うのですが、そこに「よそもの」の視点を入れることによって、意外なブレイクスルーが起こるところをこれまで何度も見てきました。必ずしもヒット商品が生まれるとか、デザインが良くなるとか、そういうことだけではなく、気づきを与える存在として、アーティストの嗅覚とか感性が役に立つと思います。

江森:人口も減り、経済も今までのようには伸びない時代に、それでも我々が成長を続けていく、それは経済的なことだけではなく、精神的なことも含めてですけど、そのためにはやはり企業がイノベーションを起こして、これまでの考え方をぶち破らないと無理だと思うんですよね。

栗栖:そうですね。私は成長ではなく進化だと思っています。成長というこれまでの延長線上ではなく、まったく新しいものに生まれ変わる覚悟が必要なんだと思います。七年後にオリンピックが来ることもきっかけになったらいいと思うし、そこにスローレーベルが関われたらいいなと思います。

江森:それは素敵なことですね。

栗栖:来年三年に一度の現代アートの祭典である横浜トリエンナーレが開催されますが、そのときに障がいのある方々とスローレーベルだからこそできる関わり方をしたいと思って、いま準備を進めています。それも単に絵のうまい障がい者を支援するみたいな取り組みではなくて、それを通じて障がい者にもやさしい都市の設計とか、それは結局お年寄りや健常者にもやさしいということですから、そういうことをみんなで考えられるきっかけになったらいいと思っています。

江森:「ユニバーサルシティ」ですね。横浜からそういうコンセプトを発信できたら素晴らしいですね。

栗栖:私は三年前に大きな病気にかかって脚が不自由になったわけですが、いま個人的に一番欲しいのは好きなところに自由にいける道具なんです。都市におけるパーソナルモビリティなんて、一番研究して欲しいことのひとつです。

江森:そこは是非聞いておかなければならないところなのですが、身体が不自由になったからスローレーベルのようなコンセプトが出てきたのか、それとも栗栖さんは以前からそういう考えをもっていたのか、どちらでしょう。

栗栖:もちろん自分が障がい者になって変わったことはたくさんあると思いますが、もともと私はダイバーシティのような発想は持っていたと思います。特に福祉の仕事をしていたということではありませんが、国籍とか文化とか障がいの有無とか、偉いとか偉くないとか、そういうことにはまったく差を感じません。だから自分が障がい者であることにも抵抗はないし、障がいのある人と仕事をすることにも抵抗はありません。

江森:これからの目標をお聞かせください。

栗栖:実は私はオリンピックの開会式をプロデュースするのが夢なんです。高校生のときにリレハンメルオリンピックの開会式を見て、この道に進もうと思ってやってきましたが、病気をして障がい者として社会復帰してからは、パラリンピックの開会式のプロデュースと言い続けています(笑)。

江森:東京オリンピックは絶好の機会!

栗栖:オリンピックは日本という国を世界の人たちにプレゼンテーションする最大のチャンスだと思います。単に美しい開会式を作るということだけではなく、都市の仕組みとか、社会のありようとか、そういうところに踏み込んでいく活動につながればいいなと思います。

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