YOKOHAMA JAZZ EGGS 小澤基良さん・福山詩織さん
江森:おふたりが中心となって立ち上げた「YOKOHAMA JAZZ EGGS」ですが、神奈川新聞にとりあげられるなど注目されているようですね。
福山:ジャズをもっと身近に感じてもらおうというコンセプトで、居酒屋さんとかレストランとかホテルなどの一角をお借りして、「投げ銭制」でのライブ活動を展開している団体で、現在30名のミュージシャンと10店舗のお店が参加しています。
江森:野毛のバーで偶々お二人のライブに行き会ったのが最初の出会いでしたが、そのときから「団体を作りたい!」と言っていた構想が実現したということですね。新聞記事を読むと「著作権問題をクリア」と書いてありますが、これはどういうことですか。
福山:それが私たちの団体の特徴というか意義なのですが、例えばこういう居酒屋さんでBGMを流すときに、有線であれば問題ないのですが、CDをかけたりライブで演奏したりすると、その曲の著作権料が発生するんですよ。いまはネット時代でライブの履歴がホームページやブログなどに残ってしまうので、著作権のことを知らずに申請しないでいると、あるときから遡って何年分もJASRAC(日本音楽著作権協会)から請求されてしまったりするということがあるのです。多いときには何百万円になるときもあると聞きます。
江森:何百万ですか!それじゃお店つぶれちゃいますね。よく伊勢佐木町あたりの路上で詩織ちゃんたちがライブやっているのを見かけますが、ストリートライブの著作権問題はどうなっているのですか。
福山:ストリートは聴衆が不特定多数で、その分著作権料も高額になりますので、著作権が切れている曲のストックでまわしています。でも著作権の期限は著作者が亡くなってから50年、戦前戦中の作品だと10年の戦時加算があるので60年、長生きされた方の曲だと百年前の曲でもまだ切れてないのもあるぐらいで(笑)、探すのが本当に大変です。アメリカの民謡や教会音楽などの中から、誰もが一度ぐらいは聴いたことのある有名な曲をピックアップして演奏しています。
江森:でもお店でのライブでは全部教会音楽ってわけにはいきませんね(笑)。
福山:そうです。そこで私たちが団体になることによって、団体主催のライブ会場を、お店に貸してもらっているという位置付けにして、団体が著作権料を支払うという仕組みにすれば良いのではないかと考えたのです。
江森:なるほど!それはうまいことを考えましたね。
小澤:しかし基本的にはお店とJASRACが契約するという以外の方法が認められていなかったため、すんなりというわけにはいかず、許可が出るまでに3ヶ月以上かかりました。いろいろ協議した結果、かつて「流し」の人たちを許可していた契約形態を応用して、今回の契約の枠組みを作っていただきました。
福山:最初掛け合ったのは横浜支部の担当者の方だったのですが、次にその上司の方と、その次に横浜支部長と交渉し、その支部長が本部にかけあってくれて、最後は中央執行部というところで、日本で初めてミュージシャンの団体とJASRACとの契約が認められたのです。
小澤:毎回ライブのたびに演奏曲目を記録しておいて、月に1回ぐらいのペースで申請に行っています。これでお店に迷惑をかけることなく、投げ銭制のライブができるようになりました。インターネットを使っての告知も堂々とやっていただけますので、コンプライアンスをしっかりしておくことはお互いにとって大切なことだと感じています。
江森:今まではお店側が著作権問題を怖がって、あまりライブをやらせてもらえなかったということですか。
福山:ほとんどのお店は著作権料のことを知らないのです。ですから投げ銭制でお店からは出演料をいただきませんといえば、やらせてくれるお店はたくさんあるのですが、見つかってしまえば後から多額の請求がきて、結局困るのはお店ですから。それでは私たちも心苦しい。
江森:JAZZ EGGSが主催している限りは著作権問題は常にクリアになっているということですね。
福山:そうです。ある外食チェーンからも定期的に呼んでいただいていますが、コンプライアンスがクリアになっているので安心していただいています。
小澤:最近、著作権法の非親告罪化が取りざたされていますが、今後TPPの進展によっては著作権者が何も言わなくてもJASRACから訴えられる可能性も出てくると言われていますので、今のうちから手を打っておくことは安心感や信頼性につながっていくと思います。
江森:素晴らしいですね!まさにCSRそのものです。見つからないようにコソコソ隠れたり、決まりだからと渋々やったりするのではなく、自ら進んで責任を果たすことで新しいステージが見えてくる。これからの時代に音楽や美術などのコンテンツを仕事にしていくにあたっての、あるべき姿を見せていただいた思いがします。
小澤:お店への安心感とともに、堂々と告知ができるようになりましたので、JAZZ EGGSのホームページ上でライブスケジュールを公開しています。普段あまりジャズを聴かない人も、居酒屋で気軽に聴いてもらうことで興味をもってもらい、ゆくゆくはライブハウスに足を運んだり、CDを買っていただいたりということになったらいいなと思っています。
江森:確かにいきなりライブハウスというのは敷居が高いですからね。そういう意味では活動の幅がすごく広くなったということですね。でも、演奏する側にもいいことですよね。とりあえずJAZZ EGGSのメンバーになっておけば面倒なことにならずに済みますからね。
小澤:そうだと思うんですけど、実際は人によりますね。今の30人のメンバー含め理解してくれる人はすごく評価してくれるんですけど、中には「なんでそんなめんどくさいことするの?」「今までこれでやってきたんだからいいじゃん」というようなことを言う人もいます。
江森:ハハハ、どこかの業界でも聞いたような…(汗)。どこにでもいるんだね、そういう人って。
一同:(笑)
小澤:すごく大切なことですけどね。
福山:一過性のことではなく、長く続けていこうと思ったら絶対にクリアにしておかなければならないことですよね。
江森:本当にそう思いますね。今後はどのような活動をされていくのですか。
小澤:2、3ヶ月やってみて事務的な手続きの流れが掴めてくれば、僕たちも慣れてくると思うので、そうなったらフリーペーパーの発行と個人会員の募集を始めます。
江森:個人会員というのはどういうイメージですか。
福山:わかりやすくいえば応援団なんでしょうけど、ある程度の出資をしていただいて活動を支えていただく方々というふうに考えています。個人会員の特典としては、年に1回のスペシャルライブへのご招待と、ライブ会場を提供してくださる加盟店様から割引等の特典を出していただこうかとも考えています。
江森:それは会員さんもうれしいし、お店もうれしいし、まさに三方良しの地域活性の仕組みですね。
福山:横浜はライブハウスの密集度が世界一と言われている街なんですよ。でもそのほとんどはかつてジャズが流行したときにできたお店なので、今やお客様はもちろん、お店のオーナーも、出演している演奏者もかなりの高齢化が進んでいます。いつ行っても同じメンバー、同じミュージシャン。それがそのまま歳をとってしまったという感じで、とても活性化しているとは言い難い状況です。私はずっとミュージシャンを続けていきたいと思っていますが、私たちが60代ぐらいになって素敵な演奏ができるようになったとしても、その頃には聴いてくださる人がいなくなっていた…というのでは悲しすぎます(笑)。そういう意味でも20代、30代の人にも、もっとジャズを聴いてもらって、記念日などにはジャズを聴きに行こうかと思ってもらえるようになったらいいなと思いますね。
小澤:かつて日本には本当のジャズファンの人たちがいて、結局今もライブハウスはその人たちが支えているのです。しかし時代とともに音楽の選択肢が増えたということもあると思いますが、特にバブルの前後でジャズを聴く文化が変わってしまい「イベント化」してしまったと思います。僕たちはジャズをイベントではなく文化にしたい。日常の暮らしの中に普通にあるジャズの文化を創っていきたいと思います。