PrintNext2022 運営委員長 青木 允さん
江森:PrintNextの第1回は印 刷関連の青年4団体が集う「Print 4」として2004年に東京で開催されま した。かつての印刷業は日本の情報インフ ラを担うとても大きな産業で、それだけに 団体の数も多く、それらの間で勢力争いの ようなことが行われていたこともあったの ですが、産業としての成長に翳りが見えて きたあの当時、せめて若手だけでも団体の 垣根を越えて集まろうということで始まっ たと聞いています。不肖この私も通算5回 目のPrintNext2012で運営委 員長を務めさせていただきましたが、青木 さんは 10 回目の節目となるPrintNe xt2022の運営委員長を務められまし た。 10 回目ということで何か意識したこと はあったのですか。
青木:まさにいま江森さんがおっしゃった ように、第1回を開催された先輩方がどん な思いだったのかということをまずは確認 しようと思い、創設メンバーのひとりであ る神戸の岸さんを訪ねてお話を伺いました。
江森:岸さんというと、当時は日本グラ フィックサービス工業会(JaGra)の 青年部Space -21 の代表幹事でしたね。
青木:はい。当時の座談会の記録なども見 せていただきましたが、今のままじゃマズ イという危機感を持って、団体の垣根を越 えて取り組もうという思いを、今の自分た ちと同じように当時の先輩方も持って行動 に移したということが確認できました。
江森:なるほど、でもそれって逆にいうと この 20 年間あんまり変わってないというこ と?(笑)
青木:そうじゃないんです!(笑)思いは 同じなんですけど、当時と今とでは大きく 違うことがひとつあって、それは当時は実 際に「壁があった」ということなんです。 でも今我々は団体の垣根を意識することな どなく、仕事でもプライベートでも自由に 交流できているじゃないですか。僕はそれ は確実にPrintNextの成果だと 思っています。だからこそ、この環境とい うのは当たり前のことではなく、いろいろ な課題を先輩方が乗り越えて今があるとい うことを、全国の青年部の人たちに伝えた いと思っていました。
江森:最近のPrintNextは全国を 9ブロックに分けて、それぞれのブロック で全体のテーマに沿って1年ほど活動した 成果を報告するというスタイルが定着して いますね。運営委員長として全国の活動も 見てきたでしょうし、各ブロックのメンバー といろいろ議論もしてきたと思いますが、 今の印刷業界の若手人材の印象はどうです か。
青木:ただでさえ右肩下がりなのにコロナ で社会全体が停滞していますし、原材料の 高騰なども重なって将来に対して不安に 思っている人は多いですね。でもだからこ そ何かしなきゃという思いも強く感じまし た。その危機感というのは今回の各ブロッ クの取り組みにも表れていたと思います。
江森:確かに取り組みのクオリティはとて も高いと感じました。この手の活動ってど うしても同好会ノリになって、楽しかった ね、よかったね、で終わってしまうものな のですが、後の活動につながっているもの も数多くあって、みんなの本気度が伝わっ てきました。印刷業界以外の方にも是非見 ていただきたいですね。
青木:そうですね、是非ホームページを見ていただきたいですし、4月 29 日に3331 ArtsChiyoda で開催する「ココカラ市場」に も来ていただきたいです。もうひとつ危機 感として感じたのは、次世代を担う人材が 業界に入って来ないということですね。
江森:印刷業界に限ったことではないでしょ うが、若者に不人気というのは単なる人手 不足というのとはまた違った恐怖感があり ますね。
青木:そもそも学生が仕事を選ぶ枠の中に 我々が入っているのか?というのは深刻な 課題なんですよね。そこで今回はできるだ け学生さんに関わってもらおうということ で、学生を対象にしたロゴマークコンテス トや、工場見学ツアーの開催、学生記者に よるフリーペーパー発行など、若者に業界 の魅力を感じてもらえる企画をたくさん用 意しました。
江森:フリーペーパー読みましたよ。学生 の反応はどうでしたか?
青木:若い人たちはメディアクリエーショ ンには興味があるのですが、それを印刷会 社がどこまで担っているのかという情報が 少なすぎるんですよね。そういう意味では 印刷会社の仕事の幅の広さを見せられたの はとても有意義なことだったと思います。 何より今回参加してくれた学生さんのうち、 2名が実際にメンバーの会社に就職したん ですよ!これにはシビれましたね。
江森:すごい!PrintNext始まっ て以来の快挙じゃない?実際印刷会社の仕 事はおもしろいですからね。それをいかに 伝えられるか、そういう場を設けられるか ということは、業界全体の課題ですね。他 に特筆すべきことはありましたか。
青木:関東甲信越静ブロックがまさに僕が やって欲しかったことを具現化してくれた 内容で、とてもうれしかったですね。
江森:長野の高山村のやつね。ワイン産地 であることを地元の子供に伝えるために、 収穫体験をした子供が 20 歳になったときに、 オリジナルラベルのワインをプレゼントす るという企画でしたね。
青木:数年前から全印工連でもソリューショ ン・プロバイダーへの進化を提唱していますが、実は課題解決プレイヤーって結構出 てきていて、すでに価格競争が始まってい ると思ってるんです。だから今回は課題解 決ではなく「課題発掘」をして欲しいとい うことを全国に呼びかけてきました。
舞台になった高山村は全国有数の高級ワイン用ぶどうの産地なんですが、村外のワ イナリーに卸しているので、地元の人は自 分の村がそんなにすごいワイン用ぶどうの 産地だなんてほとんど知らなくて、それこそ次世代の担い手づくりという観点からも、 地元行政はじめ課題感はあるものの、どう していいかわからない状態だったんだそう です。そこに目を付けた長野のメンバーが、 足しげく高山村に通って地元の信頼を獲得 しながら、地元産のワインを村からの 20 歳 のプレゼントにするというストーリーを完 成させたんです。相手は農家の協同組合の おじいちゃんたちなので、とても苦労した そうですが、地元の人も気づいていないリ ソースを活用することで、関わったすべて の人たちにとってWinWinな取り組み になったことはとても素晴らしかったなと 思います。
江森:なるほど、当日1回の発表だとよく わからないけど、これぐらい丁寧に説明し てもらえるとよくわかりますね(笑)。たぶ ん「課題発掘」してくれというリクエスト がよかったんだろうね。課題解決って言っ ちゃうと「課題はありませんか?」って聞 きに行っちゃうでしょ。それで「はい、課 題はこれこれです」ってすらすら出てくる ようなら、もうとっくに解決してるだろっ てことだよね。当の本人もそれが課題かど うかわかっていないというところに入って いかないとね。
青木:印刷会社はそこをやっていくべきだ と思うんですよね。それぞれの地域で。長 年の信頼関係もありますし、チラシを作り たいんだけどという相談ではなく、こうい うことしたいんだけど一緒に考えてもらえ ませんかと頼まれるような存在になってい かなければならないと思っています。
江森:青木さんが考えるこれからの印刷産 業ビジョンというのはどういうものですか。
青木:いきなりすごい球投げてきますね! (笑)。運営委員長挨拶でも言ったのですが、 私は世間の人が印刷=プリントと思い込ん でしまったのは、マイクロソフトがWin dowsの〝PRINT〟というコマンド を〝印刷〟と翻訳したからなんじゃないか と疑ってるんですよ。たぶん昔は印刷屋さ んってもっと幅広い仕事をする人って認識 されてたはずで、それがいつの間にかプリ ントだけをする人というふうに、世間の人 も我々業界人も思い込んでしまったのでは ないでしょうか。実は今回コマンドを翻訳 した〝犯人〟を突き止めようとマイクロソ フトに問い合わせしてたんですけど、とう とうつながることができませんでした。
江森:それ、おもしろいね!是非ライフワー クとして続けてもらって、犯人見つけたら ドキュメンタリー動画を公開してください (笑)。印刷会社がすでにいろいろな仕事を 始めていることは事実であり、そういう意 味で従来の枠組みではもはや印刷会社と呼 ぶべきなのかどうか迷うような会社もたく さんあります。となるとどうしても組合脱 退とか組合解体とかいう方向に議論が向か うわけですが、私は逆で、例えば別の業界 団体と合併するなどして組合を大きくでき ないかと考えています。政府との関係ひと つとってもスケールメリットというのは確 実にあるわけで、いわゆる〝プリント〟を 生業としていなかったとしても、スケール メリットを使うときは「印刷会社です」と 平然と言い切れる。そんなしたたかさを持 つことも、これからの時代必要なことなん じゃないかと思います。今後の青木さんの リーダーシップに大いに期待しています。