いつ誰がどんな言葉をかけるか その一言で子どもは変われる

ユカナガシマクッキングサロン主宰、前横浜市教育委員 長島由佳さん

江森:長島さんとは2015年の横浜市教 育委員会の地域キャリ教育支援協議会でお 目にかかって以来、横浜市のキャリア教育 プログラムである「はまっ子未来カンパニー プロジェクト」など、横浜の子どもの学び の場面でご一緒させていただいてきました。 今日は、横浜市立横浜総合高校で開催され ている「ようこそカフェ」という、居場所 づくり事業での食品配布の場にお邪魔して いますが、どうして長島さんがこれをやっ ているんですか。

長島:今日は、というかコロナになってか らは、おにぎりとフルーツの配布が中心で すが、2017年にようこそカフェに関わ り始めた頃は、ここで調理してここで食べ るというのを基本としていました。第1回 はわらび餅、それからクリームシチューと か、ちらし寿司とか。

江森:長島さんの専門は食育でしたね。や はり子どもたちの「食」に問題があると思 いますか?

長島:いろいろな家庭環境の子がいるから、 毎日1人でインスタント食品で済ませたり、 それすらできない場合もあります。ひとり 親家庭で保護者ともすれ違いの生活で、家 では誰とも話さないという生徒もいる中で、 ここで誰かと少しでも話して、温かい料理 を食べれば、身体だけでなく心を安定させ ることにもつながるでしょう。

江森:確かに食は大事です。今日もアボカド、 レモン、オレンジ、バナナが箱で提供され ていますが、これはどこから?

長島:元国会議員の佐藤謙一郎さんがここ を見学に来られたときに共感してくださっ て、貿易会社を経営しているご友人に頼ん でくれて、それ以来無料でわけていただい ています。毎週2回大黒埠頭まで取りに行っ ていて、クルマのタイヤの減りが早いのに びっくり!(笑)

江森:軽トラ買った方が良いのでは?(笑) ようこそカフェにはいろいろな団体が関 わっているんですね。

長島:就業支援や外国につながる生徒の相 談、デートDVに関する相談などを受けら れる団体が参加していて、私もその団体と 共に運営を担い、食育と軽食の提供をして います。他にも多くの団体に協力していた だいていて、野菜不足の生徒たちに少しで も多くの野菜を提供したくてJA青壮年部 の方に協力していただいたり、佐藤先生の お知り合いの造園会社さんの協力で学校敷 地内の未使用箇所を「ようこそガーデン」 という農園にして、横総版地産地消が叶い 始めてます。

江森:これほどまでに教育にのめり込むそ もそものスタートはPTAですよね?

長島:最初は幼稚園から、父母の会の会長 をお願いしたいと言われて、私なんてとん でもない!って断ったんですけど…。引き 受けてみたら小学校にはPTA広報ってあ るけど、幼稚園にはないなって思ったんで すよね。情報がないから興味を持ってもら えないんじゃないかと思って、園長先生に 作っていいですかって聞いたら、いいよっ てことになって。小学校のPTA会長のと きは通学路を新しく作ったり、とにかく思 いついたことをなんでも行動に移してきま したね。それができる環境だったし、協力 してくれる仲間がいたし。そうやって学校 支援や地域活動をしているうちに市P連の 会長を担い、退任後に教育委員のお話をい ただいたということです。

江森:教育委員をやってみてどうでした。

長島:やっぱり大人が元気じゃなかったら 子どもたちは元気になれない。教員や地域 の大人がいきいきと活動することで子ども たちがより良く成長していく、そういう教 育環境を整えるのが大事ということを再確 認しました。そこで私の仕事は何だろうっ て考えたときに、それはひとつでも多くの 学校に行って自分の目で見て、それを教育 行政に反映させることだって思って、学校 にはたくさん行ったし、栄養士さんの研修 会なども行けるものは全部行きました。

江森:そういうことでしたか。少し謎が解 けました(笑)。教育環境という話が出たの で、私が学校教育に関わって感じる課題に ついて話したいのですが、たとえば長島さ んも会長をされている学校運営協議会とか、学校と地域の連携を進めようという動きが あって、実際私が学校に行って授業をして いるぐらいなので、ある程度はうまくいっ ていると思うのですが、そういう地域との 連携のノウハウが教員同士で全然共有され ていない、学校の先生っていつも一人だな と感じます。これについてはどう思います か。

長島:学校の先生って自分が教える立場だ から、失敗したくないとか失敗してはいけ ないとか思っている人は多いと思いますね。 一方で、何でも人に聞けて、頼めて、広がっ ていく人も中にはいて、そういう人がはまっ 子未来に関わってると思わない?

江森:そうやっていつまでも個人の資質に 依存しているのがよくないんじゃないです かね?素晴らしくできる先生なんて、そん なにたくさんいるもんじゃないでしょう。 実際、同じ学校で同じ校長なのに、翌年担 当の先生が変わっただけで取り組みのクオ リティがガタ落ちなんてことは何度も経験 しています。ちゃんと管理してんの?って 思ってしまいますね。

長島:マネジメントよね。校長でもすごく 上手な人もいるけど、マネジメント力の高 い人をもっと養成しないといけませんね。

江森:校長先生の研修ってあるんですか?

長島:私もいくつか見させてもらいました けど、いい研修いっぱいありますよ。

江森:それでダメとなると、校長を選ぶ基 準を変えないといけないかもしれませんね。 課題は見えていると思うんですよ。教員の 働き方改革とかやってるわけですから、特 定の人に仕事が集中している現状とか。わ かっているのに改革しないというのは、やる気がないとしか僕には思えない。

長島:やらなきゃいけないのはわかってい て、動いてもいると思う。でもそれが縦割 り組織の弊害で、みんなで共有してどうし ようかと考える習慣がないというか。教育 委員だったときも、何か質問があってどこ に聞けばいい?と聞くと、それは○○課で すって言われるんだけど、それだけじゃ足 りないから、私は必ず関係する人全員に来 てもらって話を聞いていました。そうする と、それならうちで出来ますとか、スムー ズに話が進むんですよね。でもそれを今も やってるかはわからない(笑)。

江森:協力しないと仕事ができないような 仕組みに変えてしまえばいいんじゃないで すかね。

長島:でも、みんなでやろうとすると、そ れはどこの予算かということになるのよね。

江森:予算ねえ…。結局そこですか、なん かもったいないですねえ。

長島:本当にもったいない!優秀な職員いっ ぱいいるのよ〜。でも活かしきれてないで すね。

江森:確かに横浜市は優秀な人たくさんい ますよね。そういう優秀な人が組織をつな げる役を担えるようにしたらいいですよね。 人事評価としても認めてあげれば「やり損」 みたいなことはなくなっていくし。

長島:変えるにはどうしたらいい?

江森:どうすればいいんですかね?私は「や ろう」と本気で思うことだと思いますが。

長島:そうですね、結局大人がめんどくさ がっちゃダメなんです。子どもたちには未 来があるし、生まれてきた以上は食べるこ とも学ぶことも平等以上じゃないといけないって私は思っています。そうするために まずは大人がいろいろなことを乗り越えな いとね。

江森:これまで子どもに関わってきて思い 出に残っているエピソードはありますか。

長島:う〜ん、いっぱいあるなあ。じゃあ 横浜総合の話で。私がここで料理している といつも鍋を覗き込んで「これなに?」っ て聞いてくる女の子がいて、なんで聞くの かなあと思ってたら実は色覚障害だったん ですね。その子が卒業するときにメッセー ジをくれたんです。「長島さんや、みんなが いてくれたから、学校を辞めようと思った ときも乗り越えられました。長島さんが作っ てくれた料理だから、野菜嫌いだけど食べ なきゃって思えた」って。これはすごくう れしかったなあ。学校を辞めるというのも、 履修選択したくても色覚障害が原因で取れ ない科目がいくつかあった。安全面からの 理由とは分かっていても、頭ごなしにダメ というのではなく、取れるために大人がじっ くり向き合って努力し、その結果がダメな らダメでも仕方ない。そんな時に大人が生 徒にどこまで寄り添えるか。それが子ども と関わる大人の責任なんだと思います。 結構トンガってる子でね、「なんだよ!」 とか言ってた子だったけど、このメッセー ジにはこの子の素直なところが出ていて本 当にうれしかった。本来みんな素直なんで すよね。いつ誰にどんな言葉をかけられた か、そのひと言で変われるし、未来を見る ことができる。いま世の中多様性っていう けど、子どもと関わる人は、まずは自分が 多様に考えるということを大切にして欲し いですね。

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