学校法人横浜アイリス学園理事長 木元 茂さん
江森:木元さんは、横浜市幼稚園協会の会長を4期8年もの長きにわたり務められて、今年の5月に退任されたということですが、長い間お疲れ様でした。
木元:先輩方はだいたい2期4年という方が多いのですが、長くなったのにはわけがあって、2期目のときに「子ども・子育て支援新制度」ができて、ちょうど制度の変わり目だったので少し落ち着くまでということで3期目までやって、じゃあもうそろそろと思っていたときに、市長選で林市長が再選されたこともあって、市との連携や諸々を考えてもう1期となりました。でもそのタイミングで保育無償化の話が出てきたので、結果的には行政とのつながりや引き継ぎなどを考えると、これで良かったのかも知れませんね。
江森:しかも最後はコロナのおまけつきで(笑)
木元:そうそう、最後の総会なんかバタバタで。飲み会もできないし、思い出に浸る間もなくあっという間に終わりました(笑)。
江森:任期中の8年の間には保育制度もずいぶん変わったんじゃないですか。
木元:そうですね。女性活躍の流れを受けて待機児童の問題があって、設置要件や職員の処遇改善の問題、そして保育無償化と、いろいろ変わりました。でも、この8年間で補助金が下がったこともないし、保護者の金銭的な負担が増えるようなこともなかったし、まずまずうまくいったのではないかと思います。
江森:素晴らしいご活躍でした。そもそも先生はどうしてこの業界に入られたのですか?
木元:この白幡幼稚園が妻の実家なんです。大学で社会福祉を専攻していたのですが、今から40年前ですから福祉系の仕事も、今みたいに選べるほどなくて、結局一般企業に就職してコンピュータシステムの営業をやってたんですよ。妻とはその会社の同期だったんです。結婚後しばらくして、白幡幼稚園を学校法人にするという話があって、他人がやるよりは身内が入った方がいいだろうということで平成7年にこちらに来ました。
江森:学校法人にするのは何か理由があったのですか。
木元:平成5、6年頃だと思いますが、幸ヶ谷幼稚園の園長先生がご高齢で幼稚園を閉園するにあたって、仲の良かったお義母さんと話をしていて、譲ってもいいということになったらしいんです。それで神奈川県に相談したら、白幡幼稚園が学校法人になるなら良いでしょうと言われて、法人化することになったのです。
江森:幸ヶ谷幼稚園とはもともと別法人だったんですね。白幡幼稚園も歴史のある幼稚園ですね。
木元:そうですね。こちらはずーっと定員いっぱいで、むしろお断りしちゃってるぐらいですね。
江森:ここでは敷地も広げようがないですもんね。
木元:そうなんです。でも昨年隣に住んでいた叔母が亡くなって、遺言で土地を寄付してくれたんですよ。そこを畑や新しい遊び場にしようと思って準備中なんです。
江森:増築しないんですか。
木元:園児を増やすよりも、今いる子供たちにもっと多様な遊びを提供したいんですよ。夢中になって遊んだそのままの状態で家に帰って、明日も早く幼稚園に行って遊びの続きをしたい!って思ってもらえるようにしたくて、いろいろ仕掛けを考えています。
江森:コロナでいろいろなことが中断してしまったと思います。子供の遊びもそうですし、保護者の活動もそうだと思いますが、何か影響は出ていませんか。
木元:幼稚園の方は6月からなんとかスタートできましたが、保護者会の活動は全然できていませんね。3月から臨時休園したので卒業式も通常の形ではできず、一人ずつ来てもらって修了証書を渡しました。全部で4時間ぐらいかかってずっと立ちっぱなしだったんですけど、園児と保護者ひとり一人と話すことができて、本来はこうあるべきなのかもしれないと思いました。1階に入園からの写真を博物館のように展示して、3年間の幼稚園生活を思い出しながら、2階に上がって修了証書を受け取るというスタイルは、それほど密にもならずに良かったなと思いました。
江森:幼稚園のあり方を見直すという意味では、良い効果もあったということでしょうか。
木元:そうですね。保護者会や保育参観なども、本当に一堂に会してやらなければならないのかなど、見直すところはいくらでもありますし、工夫次第でより良いものができると思いますね。
江森:先ほど新制度の話がありましたが、幼稚園と保育園というのはこれからどうなっていくのでしょうか。
木元:少なくとも3歳〜5歳については、無償化になったことによって、制度的には幼稚園も保育園も同じになりました。というのは、幼稚園の教育内容は文科省の幼稚園指導要領に沿っていて、保育園は厚労省の保育所保育指針に沿っているのですが、これらは予め省庁間ですり合わせをして発行しているので、内容はほぼ同じなんです。つまり幼稚園も保育園も、卒業するときに子供たちにこうあって欲しいという目指す姿、保育の質は同じということです。
江森:そうなんですか。となると、どうせ無償なんだったら預かってくれる時間が長い方が得だと判断する保護者が多くなりそうですが。
木元:幼稚園でも横浜型預かり保育を実施している幼稚園は最長11時間無償で、これは保育園も同じです。ただ預かり保育を実施していない幼稚園もあるので、そうなると時間が長い方に行っちゃうのかなあ…。私たち幼稚園としては、教育の質を評価して欲しいという思いもありますが、共働きの方も多いので、給食があるとか、夜までみてくれるとかそういうところが判断基準になるのも理解できます。
江森:結局は同じになっちゃうってことですかね。
木元:そうだねえ…。違いといえば、お昼寝、給食、あと園庭かな。幼稚園は設置要件として園庭が必要なので。
江森:保育園は園庭のないところも多いですからね。幼稚園も大学と同じようにファシリティビジネスになっていくのでしょうか。いかに設備が整っているかが問われるという。
木元:園児の安心・安全を考えると園庭があるというのは幼稚園の強みになるのでしょうかね。
江森:幼児教育への思いを聞かせていただけますか。
木元:いやあ、僕の場合幼稚園協会の会長としては制度を整えていく方に重点を置いて政治行政との交渉をやっていて、役員の中でも役割分担をしていたので、偉そうなことをいうと叱られますが…。3年前から神奈川新町で小規模保育をやっているのですが、やってみてつくづく思うのは、幼稚園には子供は3歳から入ってくるわけですが、その子に3歳以前の時期があったのはわかっているつもりなんですけど、基本的には3歳からしか見えていないんですよ。でも実際に0歳〜2歳の子を預かってみると、3歳に至るまでに、あんなこともある、こんなこともあるということを目の当たりにするわけです。それを知ってしまうと、3歳〜5歳だけしか見てなくて偉そうにしてるなんてなんたることかと反省しますね。だからもっと保護者にも寄り添わなきゃいけないし、もっと入園前のことを見ていかなければならないと改めて思いますし、そうなると認定こども園のような0歳〜5歳までを一貫してみることができる総合的な施設にしていくのが理想なんだろうとは思いますね。ただそうなると施設もそれなりに整備しなければなりませんし、すぐにというわけにはいきませんけどね。
江森:未就園〜幼稚園〜小学校〜中学校といかにスムーズにつないでいくかということですよね。小学校の学習指導要領も今年から新しくなって、そういう意味では幼稚園がどういう状態で子供たちを送り出すべきかというところも変わってきそうですね。
木元:ウチの幼稚園も以前は型にはまった教育というか、同じ学年で3クラスあるとしたら、クラス間で差があっては保護者に申し訳ないから、3クラス全部同じ進捗で保育が進まないといけないという考え方だったんです。でもそのやり方は子供からすると迷惑なことで、もっとこれを突き詰めたいという子がいたときに、それに応えられないというのは、ちょっといまの時代にはふさわしくないと思うんです。江森さんがおっしゃるように、小学校の学習も変わってきていて、友達と話し合ってどんどん発想を伸ばそうよという授業をしているのに、白幡幼稚園の卒業生は時間が来たらハイ終わり、そこから先の思考が出てこないというようなことになったら、それこそ問題ですよね。
江森:アクティブラーニングということでいえば、企業も参加して職業教育のようなこともできるといいですね。タツミのえほんプロジェクトでは、建設業の仕事を幼稚園児に紹介することができましたが、もっといろいろな業種に展開できると、子供たちの職業選択の幅が広がると思いますね。
木元:神奈川区はおもしろい人がたくさんいるし、行政や各施設の連携もとれているので、幼稚園、大学、商店街、企業、ロータリークラブなどが一緒になって地域を盛り上げていけるといいですね。