発達障害でも活躍できる「自立した学習者」を育てたい

  • 2017年1月1日
  • 2020年12月25日
  • JO対談

ラーニング・クエスト学習センター 代表 天田武志さん

江森:天田さんは発達障害児の症状を改善しながら、自ら学習できる環境を整える「塾」を主宰されているわけですが、具体的にはどんな活動をされていますか。

天田:横浜市青葉区のあざみ野に教室があって、そこをメインに活動していますが、週に1、2回は外でも教えています。ここは保土ケ谷駅前にある「カルチャーズデイ」という学習支援が必要な子供たちのための放課後デイサービスですが、週に1回来ています。他には保育園などにも行っています。

 私の教室は、「ブレインジム」「リズミックムーブメント」「フォイヤーシュタイン教育プログラム」という3種類の教育プログラムを組み合わせて、ひとり一人にあわせて学習計画を立てて実施していくのが特徴です。「ブレインジム」「リズミックムーブメント」は脳の働きと身体の動きの連携をスムーズにするためのエクササイズ、「フォイヤーシュタイン」は認知機能を高めるための教育メソッドです。

江森:先日私もフォイヤーシュタインを体験させていただきましたが、すごく脳が活性化されて達成感もあるし、論理的思考力とか段取力を鍛えるには良いプログラムだと感じました。

天田:「フォイヤーシュタイン教育プログラム」は、イスラエルのルーヴェン・フォイヤーシュタイン教授が開発したプログラムですが、著名な発達心理学者であるジャン・ピアジェの弟子であるフォイヤーシュタインの教育プログラムは、ピアジェの理論がベースになっているのです。先日江森さんに体験してもらったのは、ピアジェの発達段階説でいうところの「形式操作期」という発達の最終段階に対応しているものですが、発達の段階によって様々な課題が用意されています。

 例えば保育園では、2つの点と点とを線でつなぐという課題をやるのですが、これには点から点へきちんと線が引けるかという運筆や、1対1対応を理解させるなどいくつかの目的があります。1対1対応というのはとても大事で、実生活でいうと自分の靴は自分の下駄箱に入れるというようなことですが、これができないと後々算数の学習がかなり難しいようです。この課題を集中的にやることで、左右を逆に書いてしまう鏡文字が直ったり、数字の2を逆から書いてしまうようなことが直る子もいます。物事の順番とか、スタートとゴールの概念ができてくるからだと考えられます。

江森:それは興味深いですね。

天田:ピアジェは人間には4つの発達段階があると言っただけで、下位の発達段階で止まってしまっている人に対するソリューションは提供しなかったのですが、フォイヤーシュタインは発達段階を引き上げていくことが必要と考え、その方法を考案したのです。

江森:天田さんの前職は民間企業で医薬品関係の研究をされていたということですが、なぜ発達障害の子どもの教育を始められたのですか。

天田:元々はサラリーマン時代にブレインジムを習ったんです。ブレインジムのキャッチフレーズが「身体を動かすことで脳の機能を整える」ということだったので、それはもっともだなあと思って、自分の仕事のパフォーマンスを上げるために始めたのが、もう10年以上前のことです。特に劇的な変化があったわけではないのですが、背中のハリが楽になったりそれなりに効果はあったので、おもしろがってやっていたら、そのうちインストラクターになってしまいました。そしてちょうどその頃「発達障害」という障害があるというのを知って、もしかしたらブレインジムが発達障害に有効かもしれないと思うようになっていきました。まだ日本ではブレインジムを発達障害児の学習支援に応用するなどということをしている人はいなかったのですが、教員OBの知り合いに相談したら、じゃあ1人見てもらいたい子がいるからと言われて、その子の家庭教師になりました。ところが、いざ家庭教師をやってみると、それこそその子の人生に深く関わることになりますし、やればやるほど「これは片手間じゃダメだな」と思うようになりました。

 しかし「学習」ということを考えると、身体を動かしているだけではなかなか伸びていかないところもあったので、ブレインジムとの間をつなぐものはないかと探していたところ、フォイヤーシュタインを見つけて神戸まで勉強しに行きました。そして、たぶん日本では初めてだったと思いますが、ブレインジムとフォイヤーシュタインを複合した学習支援のための塾を、思い切って始めることにしたのです。

江森:知り合いの教育関係者に発達障害児のことをきくと、ほとんどの方が実感として増えていると言っているので、たぶん本当に増えているのだと思いますし、それにつれて支援機関も増えていると思いますが、状況は改善はしているのでしょうか。

天田:大手の発達障害児向けの学習塾では、わかりやすい教材を用意して、先生の数を増やすなど、従来の方法の延長線上のやり方で対応しているのですが、そこをやめてウチに来る生徒は結構多いんですね。ウチはまったく考え方が違うので競合しているわけではありませんが、保護者としては従来のやり方にピンときていないところもあるみたいですね。

 公立の学校でも特別支援級とか通級などの支援制度がありますが、結局はマンツーマンで先生がついて、その子がつまずいたところまで戻って教えるだけで、教え方は同じなので、また同じところでつまずいて堂々巡りになる可能性が高いですよね。

江森:そのあたりが従来型メソッドの限界なのかもしれませんね。このまま発達障害の子が増えていくとなると、いまは支援級にしても、この場所のようなデイサービスにしても、福祉の領域でケアできているし、高齢者福祉に比べれば対象者が圧倒的に少ないから表面化しないのかもしれませんが、そのうち困ったことになるのではないかと心配しています。やはり発達障害の人も稼ぐ側にまわってもらうようなサポートをしないといけないと思うのですが。

天田:その通りですね。いまは塾というスタイルでやっていますが、今年には通信制高校のサテライト教室を開設する計画をしています。高校までつなげることで、就労支援まで踏み込んでやっていきたいと考えています。

江森:企業に対しても発達障害者への対応のノウハウを教える必要があるのではありませんか。

天田:そうですね。知的に問題のない発達障害者の場合は、周囲に理解者がいれば、問題の大部分は解決すると言われていますから、受け入れる企業内にそうしたノウハウがあるかないかということは、発達障害者が働くうえではとても大切なことだと思います。いまは企業側も基本的には発達障害者は受け入れたくないのでしょうから、そこで落ちこぼれた人がニート・引きこもりになってしまっているというのが現実です。

江森:いったんニート・引きこもりになってしまうと、普通の生活に戻ったり、就職したりということが難しくなってしまうので、そうならないように学生の頃からサポートしてあげることが必要なんだろうと思います。そういう意味では、私も出前授業などをしていますが、高校でのサポートはとても大事だと感じています。

天田:そうなんですよね。でもいまの高校の制度だと知的に問題がない発達障害の子たちが支援されるような場がほとんどないというのが現状です。支援さえしてあげれば、社会で活躍できる可能性があるのに、本当にもったいないことだと思います。

江森:これから毎年リタイアする人が大量に発生して労働人口がどんどん減っていくなかで、うまくやればタックスペイヤーになれる人が福祉で面倒みてもらう側にまわってしまうというのは、実は大問題ですよね。

天田:イスラエルでフォイヤーシュタインを学んだダウン症の人たちの中には、普通に就職して社会で活躍している人もたくさんいるとききます。日本でも発達障害者に対するサポートはもっと真剣に考えるべきでしょうね。

江森:今後の目標を教えてください。

天田:フォイヤーシュタインが提唱している学習プログラムの目標は「自立した学習者になる」ということなんです。では「自立した学習者」とはどんな人かというと、自ら問いを立て、考え、それを人前で表現して、なおかつ行動できる人のことです。ブレインジム、フォイヤーシュタインというメソッドを使って、そういう人をひとりでも多く育てていきたいと思います。それにはまず目の前の目標として通信制サポート校の開設に全力を注いでいきたいと思います。

学習支援型放課後等デイサービス

カルチャーズデイ

今回取材協力いただいた保土ケ谷駅前にある学習支援が必要な子供のためのデイサービス「カルチャーズデイ」。各種学習プログラムのほか、宿題をみてくれるなどのサポートも充実。

https://www.cultures.co.jp/
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