NPO法人協同労働協会OICHI 理事長 坂佐井雅一さん
江森:坂佐井さんは定年後に生き甲斐をなくしてしまったり、あるいはお金に困ったりして自ら命を絶ってしまう人が後を絶たない現状に危機感を抱いて、サラリーマンが定年後にも自らの力で生きていけるように、「生涯現役」という理念のもとNPO法人OICHIを設立し、2014年には青葉区のたまプラーザに「起業支援センターまちなかbizあおば(以下まちbiz)」を設立し、週末起業も含めて、様々なスタイルでの自立支援の活動をされています。 現代社会の閉塞感が叫ばれて久しいわけですが、坂佐井さんのもとに集まってくる人たちは、まさにその閉塞感を肌で感じ、それを自らの力でなんとか切り拓こうとしている人たちだと思いますが、リアルな現場感覚として現代人の不安感や閉塞感についてはどう感じますか。
坂佐井:不安感や閉塞感とひと括りに言われますが、世代によって抱えている課題が違うんだなということを感じます。まちbizでは入会を希望される方はすべて私が直接お会いして、ニーズを見極めた上でまちbizに合っているのかどうかを判断させていただいているのですが、まさに今日の午前中の話で、27歳の方からの入会希望があったのですが、いまの27、28歳というのはちょうど就職活動のときに東日本大震災があって、企業が採用を絞ったときで、新卒で就職できなかった人がたくさんいるのです。同じ20代でも後半の人たちと、いま就職活動をしているような前半の人たちとでは、感じている閉塞感というのは違いますし、30代にしても40代にしても、自分たちが生きてきた時代背景によって、感じ方が大きく違うと感じています。
江森:なるほど新卒一括採用のデメリットが露呈しているということですね。他の世代はどうですか。
坂佐井:われわれ40代は、家と会社の往復しかしてこなくて、他に居場所がないという人は多いですね。また仕事がうまくいっていない人も多いので、どちらかというと後ろ向きな相談が多いですかねえ…。もう少し上の50代になると、今度は会社を辞めちゃう人が出てきます。それもけっこう無計画に辞めてしまうことが多いので、辞めたはいいけど、その後のことがうまくいかないという人が目につきます。
江森:まちbizの会員さんでは、前向きな人と後ろ向きな人の比率はどうですか?
坂佐井:まちbizでは前向きな人の方が多いと思いますね。30代、40代はまだ子供が小さかったりしますので、そういう意味でも無茶はしないというか、計画的に動いている人が多いと思います。50代になると子育ても一段落している人が多いですし、20代はまだ家族がいませんし、そういった背景も影響していると思いますね。
江森:これまでのところまちbizで閉塞感の解消はできていると感じていますか。
坂佐井:地域の政治的なイベント、たとえば議員さんが開催するタウンミーティングのようなものですが、こういうものはとても高齢化しています。参加者が高齢者なので話題も高齢者へのサービスの話に偏りがちになっていますが、本当は高齢者を支える若者への支援をどうするのかということをしっかり議論しなければいけない。でも若い人が参加しないと、そういう話にはならないのです。しかし最近少しずつ若い参加者が増えていて、そういう人を見るとほとんどがまちbizの関係者なんですね。まちbizはバーチャルオフィスとしてまちbizの住所を自分のオフィスの住所として使うことができるのですが、地元にオフィスの住所を持って働き始めることで、地元への感心が高まって、タウンミーティングなどにも参加してみようという気持ちになってくるようです。
まちbizは、地元で働くということを通して、若い人たちが地元のコミュニティや政治にも目を向けていくという流れを作り出しているような気がします。
江森:まちづくりの起点になっているということですね。これから起業しようとする人たちの課題になっていることはどんなことですか。
坂佐井:これは地元の議員さんにもお願いしているのですが、社会保障ですよね。サラリーマンのメリットのひとつは社会保険制度に加入できて、しかも会社が半分持ってくれるということですが、起業するにはそれを捨てなければならないわけですよね。しかし収入の後ろ盾を失う起業家にこそ、社会保障は必要なわけで、サービス内容がガクンと落ちてしまう現状の制度には問題があると感じています。そのあたりの支援を地方自治体が独自でやってくれると、その地域で起業する人が増えるのではないかと思いますね。
江森:確かにそういう面での起業サポートというのはあまり聞いたことがないですね。ほとんどが融資とか、オフィスを安価で貸してあげるとか、専門家のコンサルが受けられるとか、そんなのばかりですからね。まあ役所に起業家の気持ちになれと言ってもなかなか難しいのでしょうけど。
それでも、すでにひとつの会社に一生勤めるというような時代ではないわけで、起業という選択肢がもっと一般的になっても良いと思うのですが、現場の感覚ではいかがですか。
坂佐井:20代の人たちと話をしている限りでは、まだまだ「就職」ですねえ。もちろん親の影響もあると思います。青葉区という土地柄か、学習塾も多いですし、とにかく一流企業に入れようというような育て方の中にいるので、「就職」という考え方になるのもやむを得ないのかなと。そういう意味では青葉区は他の地域より遅れているかもしれません(笑)。
江森:もちろん将来東大出て官僚になったり、大企業の幹部になったりという人もいるし、いないと困るのですが、みんながそうなれるわけじゃないですからね。
坂佐井:だからこそ、江森さんがやられているように、若者たちの中に地域の大人が入っていって、働くことの楽しさとか、職業の多様性とか、そんなことを教えてあげることが大切なのだと思います。普通の子は「働く」ということについて、親からしか情報が入らないですから。
江森:しかしこれだけ閉塞感があって、終身雇用なんて遠い過去の話であって、サラリーマンといわれる人たちすべてが決して幸せになっているわけではないという現実を、親は知っているわけですよね。なのに何で自分の子供にそれを勧めちゃうんですかね。
坂佐井:う〜ん、それは難しい問題ですよね。まちbizの会員でアフィリエイトで生計を立てている人がいるのですが、その人に「自分の子供にアフィリエイトやらせる?」と聞いたら「う〜ん、どうだろう」と、「じゃあサラリーマンになれっていう?」と聞いたら「う〜ん、どうだろう」と言ってました(笑)。やっぱり親も悩んでいるんですよね。それはたぶん僕もそうです。結局答えが出てないんですよね。
江森:それが判断できるようになるために、足りないものは何なのでしょうか。
坂佐井:情報は足りてないですよね。だから親ももっと社会参画するというか、地域と交わってNPOの活動などに参加してみる必要がありますよね。私もこういう活動をしてみて、ああ、こういう人もいるんだとか、こういう仕事もあるんだとか、いろいろなことを知りましたから。
江森:一方で、NPOや地域の活動は閉鎖的というか、仲良しグループになっちゃっていて後から入りにくいという声も聞きますよね。
坂佐井:それはよく聞きますね。私がまちbizと並行してやっている「あざみ野ほろ酔い交流会」などではそういう意見がよく出ます。だからほろ酔い交流会では、毎回半分は新しい参加者に来てもらうように工夫しています。そうしないとどんどん閉鎖的になってしまいますので。
江森:今後の目標を教えてください。
坂佐井:まちbizの目的のひとつに「地域の課題をビジネスで解決したい」という思いがあるんですよ。自分たちの街の課題をビジネスで解決できれば、みんながうれしいし、地域も活性化すると思うのですが、まだまだそういうふうにはなっていません。いまだに「オレたちの街を商売のネタにするのか!」といったような、地域にビジネスを持ち込むことへの抵抗感が根強いと感じています。さらに高齢化が進んで、行政の手が地域にまでまわらなくなってくる時代に、地域のためにビジネスをすることはいいことなんだという意識改革をしていけたらと思っています。
江森:私もOICHIの起業支援プログラムのひとつである「協同起業塾」に講師として参画させていただき、「スモールビジネス」の可能性を拡げるべく挑戦しているところです。今後もそれぞれの立場で「ビジネスで地域課題を解決」できる自立した地域社会を目指してがんばっていきましょう。
坂佐井:「協同起業塾」は単なるお金儲けということではなく、「誰かのために」自分が何をすることができるのか?そしてそれをビジネスとして継続させていくためにはどうすれば良いのか?を体系的に学ぶことができる大変良いプログラムです。今後とも塾長としてよろしくお願いします。