「あなたがいて良かった」と言ってもらえる業界を目指して

  • 2017年7月20日
  • 2020年12月14日
  • JO対談

横浜市資源リサイクル事業協同組合 企画室長 戸川孝則さん

江森:環境絵日記という事業を長年にわたって続けてこられて、弊社でも昨年から「地域企業賞」というカテゴリーに参加させていただいております。この事業の目的は、リサイクルやごみの分別に対する意識を高めてもらうことなんだろうと思いますが、対象を子どもにしたというのはどういう狙いがあったのですか。

戸川:私たちの仕事は皆さんがご家庭でごみの分別をしてくださって初めて成り立つわけで、ごみの分別をしてくださる人を一人でも増やしていくことが、私たちの産業の発展にもつながっていくと考えています。つまり、なかなか分別に意識が向かない方、「まあいいか」と思ってしまっている方に、どうやったら分別の意識を持ってもらえるかということが、私たちの大きな課題のひとつだったわけです。そこで学校の夏休みに「家族で環境について話し合ってください」という宿題を出して、子どもから親に問題提起してもらえたら、さすがに子どもに言われたら親もやらざるを得ないだろうと(笑)。多少よこしまな感じもしないではないですが(笑)、たくさんの人を巻き込めるならいいだろうという考えで始めました。

江森:初年度から1000作品以上の応募があったということですが、どうやって集めたのですか。

戸川:いやもう、知り合いを頼ってひとつひとつでしたね。ただ『リサイクルデザイン』という情報誌を町内会等に向けて発行していたので、話を聞いてくれる人が多かったというのは助かりました。でも、初年度に最低1000作品を集められなければ次はないと思っていたので、町内会に行ったり、小学校に行ったりと、実際はかなり動きましたね。

江森:その後も順調に伸びていったのですか。

戸川:実は2年目に油断したわけではないのですが、応募数が700まで落ちてしまいました。こういうのって3年目がひとつの試金石になりますよね。失敗が許されない状況で迎えたのが3年目の2002年でした。

江森:サッカーワールドカップ日韓合同開催の年ですね。

戸川:その通りです!この年日韓の文化交流の気運が高まっていて、国の補助金もたくさん出ていたんですね。その中の内閣府の補助金を受けて環境絵日記を日韓合同開催にしたのです。

江森:それはすごい!韓国の小学校から募集したのですか?

戸川:在日韓国大使館に企画書を持ち込んでプレゼンしたら、ソウルは難しいけどインチョンならいいだろうということになって、インチョン市内の185校が参加してくれました。その中から優秀作品に選ばれた6組の親子を授賞式に招待して、子どもたちから日韓共同宣言を発表してもらったりして、かなり盛り上がりました。この年は内外ともに環境絵日記の意義を認めてもらえたターニングポイントでしたね。

江森:今年は18回目ということですが、当初から比べて何か変化はありますか。

戸川:10回目に応募が1万作品を超えたのですが、大桟橋ホールで毎年開催している絵日記展で展示できるのって600作品なんですよ。せっかく1万人以上の子どもが私たちの呼びかけに応えてくれてるのに、こちらからは何もお返しすることができない。これは違うんじゃないかと悩んでいたところ、富士ゼロックスさんがみなとみらいにR&Dスクエアを開設したのを機に、環境絵日記を応援したいと申し出てくれて、スキャナを貸してくれたのです。それで絵日記をデータ化して、ホームページに掲載したり、データで送ったりということができるようになりました。今では全作品がホームページで閲覧できますし、後の企業協賛にもつながっていく、大きな変化でした。

江森:昨年弊社で協力させていただいた「地域企業賞」というのも、企業側からするととても参加しやすいプログラムですね。

戸川:ありがとうございます。地域企業賞については「自社の社会貢献の目指す方向性が絵日記として可視化されるので全員で共有できて良かった」など、本当にうれしい声をいくつもいただいています。今後は、このような仕組みをもっと進化させて、頼りになる地元の企業が市内約350校のすべての小学校についているという状況を作りたいです。企業にとってもESDとかキャリア教育というと、かなりのスキルを必要としますし、すべての小学校でというには少しハードルが高い。そこまでいかなくても、とりあえず相談できる関係というか、入り口として環境絵日記を使ってもらえればと思っています。

江森:ここ数年の間に、廃棄物やリサイクルを巡る社会環境は急激に変わってきているように感じます。私たちの印刷産業も同様ですが、業界としてはどのように対応されていますか。

戸川:2000年に循環型社会形成推進基本法というのができて、一般廃棄物の処理に加えてリサイクルも地方自治体の責務になりました。これは社会にとってはもちろん良いことなのですが、それを仕事にしてきた私たちからすると、自治体に仕事をとられちゃうことにもなりかねなかったわけです。そこで横浜では、行政が資源の回収をしないかわりに、町内会等で実施している資源集団回収を業界として100%実施するという政策の下、実際にそれを実現しています。今のところなんとか対応できていますが、この先もっと変わっていくと考えています。

江森:行政サービスの一翼を担う業界になってしまったということですね。そうなると社会的な責任も重くなりますし、CSRを考えざるを得なくなったという経緯もよくわかりました。

 ところで、いよいよ今日の本題に入りますが(笑)、弊社でも環境の取り組みはいろいろやっていて、その一環として分別も一生懸命やろうとしているわけですが、そこにある種の限界を感じています。というのは、回収業者さんがある程度までしか対応してくれないために、せっかく分別しても意味がなくなってしまうということが起きているからです。一方で、「分別面倒だから全部一緒に持って行ってよ」という意識の会社もまだまだたくさんあるでしょうから、回収業者さんも、分別していなくても黙って持って行くことが良いサービスであるかのように錯覚してしまう。まさに「負の連鎖」が起こっていると感じています。

戸川:リサイクルするには誰かがどこかで分別しなければならないわけです。私は発生現場で分別するのが一番いいと思っていますが、今のところ分別の責任が明確になっていないことが問題なんだと思います。分別はなんとなくごみを排出する人の「善意」に任されていて、厳密に分けても適当にやってもメリットもデメリットもありませんからね。

 現在EUで進められている政策で「サーキュラー・エコノミー」というのがあります。これはEU圏内から排出された廃棄物から再生材を作って、EU圏内の企業がその再生材を使って製品を作ることで経済を回していこうという政策です。つまり従来の「資源にする」という考え方をもう一歩進めて「材料にする」のです。当然そこには商品にするための品質管理が必要になりますから、良い排出事業者が得をして、悪い排出事業者は損をするという仕組みが導入されていくことになるでしょうね。

江森:それはいいですね。日本も早くそうなるといいと思いますが。

戸川:サーキュラー・エコノミーというところまではいっていませんが、経済産業省が「静脈産業のメジャー化」、つまりリサイクルの大企業を作ってしまおうという政策を推進しています。今や再生資源は世界中で取り合いになっていますから、世界で戦えるレベルの企業が日本にないと、その分野で完全に遅れをとることになります。この政策が実現すると日本の廃棄物を巡る状況はかなり変わるでしょうね。

江森:原料から製品が作られる過程で細分化されたものを、もう一度集約して原料として再利用しようという話ですから、一番のポイントは「どうやって集めるか」ということになりますよね。つまり末端まで行ってしまった少量の資源を効率よく、かつ品質を維持したまま再び吸い上げるノウハウと組織力が必要になるわけで、自らを〝静脈産業〟だと名乗るからには「量が少ないから回収できません」という言い訳は通用しないでしょう。その点私は現状にかなり不満があります。

戸川:たぶん近い将来、少量でも回収できて、しかもきちんとリサイクルできる企業が出てくると思いますので、江森さんの不満も解消に向かうと思いますが、それだけに小規模の会社は対応が難しくなります。設備投資も必要ですし、勉強も必要になります。そういう時代に備えて、どうしたら生き残れるのかを考えた時に、やはり地域との信頼関係を築くことが大事で、そのためのCSRであり環境絵日記なんです。最終的に横浜市民の人たちに「あなたたちがいてくれて良かった」と言ってもらえるかどうか、その信頼を裏切らない限り、この先も私たちはここにいて仕事をさせてもらえると信じています。

*ESD( Education for Sustainable Development)
持続可能な開発を実現するために発想し、行動できる人材を育成する教育。(ウィキペディアより)

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