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本人に帰責性のない社会的弱者を見るとスイッチが入ります。

公益財団法人日本非営利組織評価センター事務局長  瀬上倫弘さん

江森:瀬上さんとは2017年にNPO・企業・行政協働で実施した寄付のイベントでご一緒させていただいてからのお付き合いなので、そこそこ古い付き合いではあるのですが、今回対談をお願いするにあたって、そういえば瀬上さんのキャリアについて全然知らなかったことに気づきました。初めてお会いしたときはWFP協会の職員さんでしたが、そこに至るまでの経緯をお願いします。

瀬上:これは今でも自分のミッションだと思っていることなのですが、本人に帰責性のないことで社会的に弱い立場に立たされている人のサポートをしたいとずっと思っていて、ですから大学では法学部に入って法曹を目指していたんです。でも最後の試験がどうしても受からなくて、家族にもこれ以上迷惑はかけられないと思って、ワイン関係の会社に就職しました。

江森:ワイン!?それはまた意外な!

瀬上:実はワインエキスパート資格を持ってるんですよ。社長さんから商売のコツを教わりながら結構がんばっていたのですが、ただずっと違和感というか、同僚に対して申し訳ない気持ちがずっとありました。みんなはワインのことを愛していて、利益を上げるために一生懸命働いているのですが、どうもそこに乗っていけない自分がいるんですよね。だんだん自分はここにいてはいけないのではないかという気持ちが強くなって後先考えずに辞めてしまいました。

江森:奥さんも子供もいるのに…(笑)。

瀬上:もうしないでねって言われました(笑)。それから半年ぐらい就職活動が思うようにいかなかったのですが、ある人に会ったことがきっかけで、本人に帰責性のない社会的弱者のサポートという自分のミッションをもう一度目指してみようと思えるようになって、それから急にあちこちから声がかかるようになり、国連WFP協会に就職することになりました。

江森:そこで私もお会いすることができたわけですね。日本非営利組織評価センター(JCNE)にはどうして?

瀬上:WFP協会で10年強いろいろ経験させていただく中で、素晴らしい活動をされている他のNPOの方たちと出会うことができて、監事などで関わることが多くなってきたこともあり、もっと広くいろいろな活動に関わりたいという気持ちが強くなって転職することにしました。

江森:非営利組織専門家の瀬上さんにお聞きしますが、今改めてNPOの存在意義というか、NPOって必要なのかどうかということについてどう思いますか。

瀬上:確かに変わってきていると感じますし、「NPOってオワコンなんじゃない?」みたいな話もよく聞きます。最盛期は5万団体だったのが、今は4万団体に減っていますので、データの上でも裏付けられています。では、非営利団体全体が減ったのかといえばそうではなくて、一般社団法人はすごく増えています。私が授業を担当している高校でも、生徒がドローンを使った災害支援の一般社団を立ち上げました。学生に話を聞くと、NPOは地域課題を扱っていてボランティアベースのこじんまりした団体、一般社団はビジネスの手法を使って社会課題の解決をしていく団体というイメージがあるみたいです。

江森:その認識が正しいかどうかはさておき、若い人たちがビジネスで社会課題を解決するということを真剣に考え始めたということでしょうか。

瀬上:今や企業も利益追求一辺倒じゃなくなってきていますよね。ウチは安くて大量に売れればそれでいいんですなんていう企業はほぼ無いし、若い人たちもそこは見抜いているから、ビジネスで社会課題解決できるという可能性は信じているのではないかと思います。

江森:企業がビジネスで社会課題を解決するというコンセプトは、横浜型地域貢献企業認定制度を通じて、私もずっと言ってきたことなので、若い人たちがそういう認識を持ってくれることはとてもうれしいことなのですが、ではそれがスタンダードになった時代において、それでもなおNPOでなければならないことってあるんですか?

瀬上:あるんでしょうか?実際、一般社団の非営利徹底型とNPO法人を比べても、できることというのはほぼ同じだと思うんですね。ただNPOは地域の人たちの共感を得て、活動を支援してもらっているという特長はあると思いますね。

江森:では、持続可能性についてはどうですか?

瀬上:NPOはミッション・ビジョンから始まるので、ミッションとしていた課題が社会から無くなれば解散して良いと思うのですが、例えば暴力のない社会を作ろうというビジョンを掲げたとして、そんなに簡単に実現できるものではないので、そうなると組織の持続可能性についても考えなければならないということになります。初代のメンバーの人たちはボランティアでできたかもしれないけど、ボランティアのままで誰が引き継いでくれるんですか?ということですよね。だからマネジメントをきちんとやらないといけないのですが、そもそもNPOが取り組んでいることって、利益が出にくい分野なわけです。利益が出るならとっくに企業がやっているんですよね。ですから企業と逆で、事業が拡大すればするほど、NPOは運営がきつくなるんです。そういうところも考慮して収益のバランスをとっていかなければなりません。

江森:なるほど、元の事業が赤字だから、事業が拡大すると赤字も拡大しちゃうということですね。それはつらいですね。それに関連して気になっているのは、行政の下請け的に事業を受託しているNPOたくさんあるじゃないですか。自分たちのコストを下げるために都合よく使おうとする行政もいけないと思うんですけど、あの状況はどう思いますか。

瀬上:「ミッション・ドリフト」という言葉があるのですが、行政の委託を受けているうちに、だんだん自分たちのやりたかったこととずれてきてしまう現象のことです。委託事業を受けると、先ほども言ったように事業が拡大して規模も大きくなり、人も増えるので、やめるにやめられなくなり、下請けが目的化してしまうというリスクはありますね。ただかつては行政とNPOは垂直的な関係でしたが、最近は行政もNPOをパートナーとして見ていると感じる場面は増えてきましたね。

江森:企業と一般社団は営利・非営利の違いはあるとはいえ、成り立ちから考えると両者はほぼ同じものですよね。それらに対してのNPO法人ということを考えたときに、もし存在意義があるのだとすれば、NPOは最初に10人集めないといけないでしょ。あれ、すごく大事なことのような気がするんですよね。その10人がその後の意思決定に関わるとは限らないにしても、少なくとも意識はすると思うんですよ。彼らはどう思うかなってね。大企業は別として、中小企業の意思決定なんて社長が決めれば決まっちゃうし、その良さというのもあるんだけど、逆に縛りが多いことが、NPOにとってはとても意味のあることなんじゃないかと、なんとなくそんな風に思います。

瀬上:確かにNPOの方が意思決定のスピードは遅いと思います。でもより多くの人の意思を反映させるために、より多くの他者のことを考えるプロセスを経る必要があるという意味では、より民主的だし、より公共性が高いとも言えますね。
もうひとつNPOの存在意義でいえることがあるとすればアドボカシー、つまりある課題について、その課題について多くの人に知ってもらったり、解決策を提案したりする役割ということは言えるかもしれません。先ほどの江森さんのご意見は組織の内部に注目した観点ですが、社会的役割ということで考えるとそういう特長もあるかなと思いますね。

江森:それも言えますね。社会のある課題に対して、最初に光を当てる人というか、そういう役割もとても大事ですね。
NPOが明確にそのポジションを確立することができれば、もっと寄付の受け皿になれると思うんですよね。だって寄付を自己満足でなく、社会に役立てるためにしようと思ったら、NPOか学校ぐらいしかないじゃないですか。

瀬上:NPOが本来の目的である課題解決のためのアドボカシー活動をしていくためには、寄付はとても重要な財源です。寄付の動機となるのは「共感」ですが、多くの人の共感を得るには、やはり課題を知ってもらうための活動が必要です。でもそれだけでは足りなくて、この団体なら寄付したお金をきちんと役立ててくれるという信頼を得ることもとても大事なことだと思うんですね。JCNEでは非営利団体の評価の研究もしていこうと思っています。
自分に何ができるかということを考えた時に、やはり研究というのは大きなテーマで、非営利団体の実務に役立つ研究をこれからも続けていきたいと考えています。研究にあたってはユースの人たちと一緒に取り組んでいくことで、若い人たちの教育にも貢献できたらいいなと思っています。

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