どんな境遇の生徒でも、好きな野球に打ち込ませてあげるのが教育です。

  • 2014年7月20日
  • 2020年12月25日
  • JO対談

(一財)神奈川県高等学校野球連盟 専務理事 名塚 徹さん

江森:いよいよ今年も球児たちの夏が始まりますが、まずは神奈川大会の展望からお聞きしたいと思います。

名塚:一言でいえば「混戦模様」ということですが、そうはいってもシード校にそれなりに強いチームが残りましたので、「柱のある混戦」といったところでしょうか。

江森:本命はやはり横浜高校なのでしょうが、春はもうひとつ調子が上がらないようでした。

名塚:そうですね、エースの伊藤君の出来次第というようなところもあるようですが、それでも昨年の夏・秋、今年の春と続けて横浜が県大会で優勝しているところをみると、やはりどこか強いところがあるということではないかと思っています。

江森:今年の大会誌「高校野球」にも掲載されていますが、巨人軍原監督のご尊父原貢さんが亡くなられました。

名塚:大変残念なことですね。本当に神奈川の高校野球を飛躍的に発展させてくれた方ですので…

江森:私が小学生の頃ですが、原、津末の三番、四番コンビで一世を風靡した東海大相模を率いた原貢監督の功績は、やはり大きいのですね。

名塚:それは大きいですよ。それまではバントなど小技でつないでいくのが高校野球だったものを、豪快に打って勝つというスタイルを確立したのが当時の東海大相模です。ちょうど金属バットが出始めた頃ということもあったと思いますが、高校野球にとって大きな転機であったのは間違いないでしょう。

江森:その当時も高校野球はすごい人気でしたが、最近またブームといいますか、人気がうなぎ登りのような気がするのですが、現場の感覚とはしてはどうですか。

名塚:確かにここ5年ぐらい、観客の方はすごく増えていると思います。

江森:理由として何か思い当たるようなことはありますか。

名塚:不景気だったこともあるのでしょうが、子どもと野球観てお弁当食べて、1日500円で楽しめるというので、子ども連れの方がとても増えた時期がありました。そのころお父さんに連れられていた子どもたちが、いま現役の選手やマネージャーとしてベンチに入っている世代です。ですからその親御さんとか、おじいちゃんおばあちゃんが観に来てくれているというのは理由のひとつでしょう。

 もうひとつは港町である横浜には明治時代、既に外国から様々な人が来て、その中には野球の上手い人たちもたくさんいたはずですから、他所では観られない本場の野球が観戦できたということも、下地としてあるのではないかと思います。

江森:野球観戦が文化として根付いているということでしょうか。

名塚:勝負ですから当然勝ち負けはあるのですが、勝ち負けを見に行くというよりも、野球場の雰囲気とか、勝負の運の流れ、そしてたとえ応援しているチームが負けたとしても「くやしい!」というような感情もあまり表に出さず、どちらかといえば淡々としているというのが神奈川の野球ファンの特徴であるように思います。

 それはプロ野球にも表れていて、ベイスターズの試合はベイスターズの勝利を見に行っているというよりは、ナイター照明のもと、ビールを飲んで、大声出してという、野球観戦そのものを楽しみに行っているように思いますね。

江森:それはありますね。勝ちを見に行くんじゃ、やってられないというのもあると思いますが(笑)

名塚:もちろん、そのうえ勝ってくれれば気持ちはいいけど、負けたからって「二度と来ねえよ!」ってことでもない(笑)

江森:野球にしてもサッカーにしても、メジャーなスポーツが「部活動」という制度に支えられているというのは、日本独特の文化なのではないかと思いますが。

名塚:世界的にみればクラブチームに所属するというのがスタンダードなのでしょうから、部活動がこれだけ盛んだというのは、世界的にも珍しいでしょうね。それが故に学校は大変ですが…

江森:教員の労働時間の比較で、日本が先進国中最も長いという結果が出ているようですが、学校の先生の仕事が多岐にわたってくる中で、日本のメジャースポーツの裾野が学校の先生たちの努力のみによって支えられているというのは、少し問題なのではないかと思っています。

名塚:私などは、部活動がやりたくて教員になったクチだから(笑)、部活動はまったく苦にならないのですが、それ以外の仕事が増えてきて部活動の時間がとれなくなってきていることの方が問題ですね。最近の傾向として、部活動はできるだけ外部の指導者に任せて、教員は授業や学校運営に集中すべきだとの声もあるようですが、部活動によって教えられることもたくさんあるわけですから、学校や教員がきちんと関わるべきだと思っています。

 例えば、当然スポーツをやるには場所や用具が必要になってある程度お金がかかりますが、お金を出せる生徒はスポーツができるけど、お金が出せなければスポーツはできないなんて、そんなのは教育じゃない。だからこそ学校の部活動を通じて、お金のある生徒もない生徒も関係なくスポーツに打ち込むことができる環境を作っていくというのは、本当に大事なことなんですね。

 用具にしても子どもは誰だって良いものが欲しいし、流行のものを15人のうち12人が持っていれば、残りの3人だってやっぱり欲しくなる。でも家庭の事情で買えない、となれば、野球をやっているが故に悲しい思いをすることになってしまう。それもまた教育とはいえないでしょう。

江森:高野連としては、過剰な用具については禁止しているということですか?

名塚:禁止とまでは言っていませんが、必要以上に高価なものを使わせないような指導は高野連としてもお願いしているところです。大切なことは、あれがダメこれがダメとうことではなくて、例えば金銭的に苦労している生徒が悲しい思いをするような部活動であってはならいということ。つまり家庭とか、身体とか、国籍とか、競技とは関係ないことで生徒が悲しい思いをするような部活動であってはならないということです。

江森:仲間との絆や思いやりを選手に理解させることも教育というわけですね。私の母校には数年前に女子選手がいましたが、女子は試合には出られないのですよね。

名塚:男女の別となると話は少し違います。野球は男女混合のスポーツではありません。サッカーにしろ、バレーボールにしろ、ほとんどのスポーツは男女混合ではないわけで、女子が野球をやるなら「女子野球」をもっと普及させる努力をすべきです。

江森:確かに女子ソフトボールはありますが、女子野球はあまり聞きませんね。

名塚:女子は体が柔軟だから、もしかするとこれまでにない変化球など生まれるかもしれませんよ!カーブしてからシュートとか!

江森:(爆笑)昔の野球マンガにありましたね、そういうの! しかしサッカーの例を見ても、女子野球が発展するのは野球界全体にとって良いことです。高校には女子野球部というのもあるのですか?

名塚:まだ学校数が少なく高野連とは別組織での運営なので正確ではありませんが、関東で見れば5〜10チームぐらいはあると思います。男子の夏の大会の参加校が190校ですから、女子も20チームぐらいになれば何かできるかもしれませんね。

江森:それは楽しみですね。指導者不足などの問題はないですか?

名塚:それは確かにあります。また指導者が忙しくて余裕がないですね。本当は放課後はもっと生徒と一緒にいたいのですが…。特に野球部の顧問は体育科以外の教員も多く、野球部の顧問をやりたいがために教員になったような人が多いのです。それだけに部活に思うように時間が割けないというのは、つらいところでもあります。

江森:今後の高校野球を取り巻く課題についてご意見を聞かせてください。

名塚:それはいろいろあると思いますが、まずは生徒の身体が弱くなっていることかな。最近の子どもは骨が弱くなっているから、デッドボールとか自打球とかで簡単に骨折しちゃうんですよね。骨折対策で防具をつけるように指導するなんてことになるかもしれませんね。

江森:少子化の影響もあるでしょうね。部員数は減っていますか?

名塚:神奈川はなんとか減ってはいませんが、やはり生徒の数自体が減ってきていますので、とにかく3年間続けさせるにはどうしたら良いかというようなことは、顧問会議などでも話題にのぼります。これは以前からの傾向ですが、中学校の野球部員数に比べて高校は約半分、やはり中学で野球をやめてしまう生徒が多い。そこで高野連では高校野球の指導者による中学生対象の講習会を定期的に開催しています。これによって「僕にもできるかもしれない」と自信を持ってくれる生徒は多いようです。

 Jリーグができて野球人口が減ったように言われますが、部員数でいうと横ばいから、最近ではまた少しずつ増えてきていますので、神奈川の高校野球もまだまだ伸びていくと思います。引き続きご支援お願いします。

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