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ユニバース25とSDGs 〜人間社会は本当に滅亡するのかの考察〜

  • 2025年8月5日
  • 2025年8月7日
  • CSR&SDGs

YouTubeの解説系動画の定番ネタとも言っていいものとして、「ユニバース25(Universe 25)」があります。
この実験結果が、まるで人間社会の行末を示すものではないか、ということで非常にセンセーショナルなものですが、では「本当に人間社会は滅亡するのか」ということについて、SDGs/サステナビリティの視点から考えてみました。

ユニバース25とは

まずそもそもユニバース25自体、いろいろなサイト、あるいは動画等でまとめられていますが、調べてみると正確な情報が意外と曖昧な実験です。
実験そのものの科学的な客観性も疑われている部分があるようですし、俗説として語られている内容にも、誰かが「盛って」表現しているケースもあるようで、解釈には注意が必要です。
下記は、Snopesの記事およびカルフーン(1973)の論文[Death squared: The explosive growth and demise of a mouse population]を参照し、事実に大きく逸脱しない範囲でまとめたものです。

実験の概要

ユニバース25(Universe 25)は、1970年代にアメリカの動物行動学者ジョン・B・カルフーンによって行われたマウスを使った社会行動実験です。この実験では、マウスたちにとって理想的ともいえる環境が用意されました。そこには十分な食料と水、安全な巣、病気のない空間があり、外敵の心配もありません。まさに「マウスのユートピア」であり、マウスたちの終わらない繁栄が繰り広げられるかのように思われました。

フェーズA:適応期(0〜104日目)

実験開始時、4組のオス・メス(計8匹)のマウスが投入されました。最初は慣れない環境に混乱していたマウスたちですが、次第に適応していき生活基盤が築かれていきます。実験開始から104日目に初めて子どもが産まれるまでがこの適応のフェーズです。

フェーズB:資源活用期(105〜315日目)

最初の出産が起きると、人口は指数関数的に増え始めます。個体数は55日ごとに倍加していきました。
また社会階層化がはじまり、強いオスはテリトリーとメスを確保し多くの子孫を残すことができるなど、ヒエラルキーが見られるようになります。しかしこの傾向自体は自然界でも見られるものであり、この時点では理想的な人口成長と社会運営が実現されてました。

フェーズC:停滞期(316~560日目)

順調に発展を続けてきたマウスの楽園ですが、この時期に入ると陰りが見えはじめます。
既存の社会構造に居場所を見つけられなかった若いオスたちは、自然界では通常、別の場所に移動して居場所を見つけるか、見つけられなければ野垂れ死ぬ運命です。しかしこの閉鎖され、かつ食料に困らない環境の中では他の場所にも行けず、しかし生き残ることはできますから、結果として自発的な社会的交流を一切行わない、引きこもり状態になっていきました。
彼らは刺激に対して非常に敏感になり、餌を求めて戻った別の個体に対して攻撃を行うようになります。攻撃されたオスは他の個体を攻撃し、暴力が再生産されていきました。
メスの中でも引きこもり化は発生し、引きこもり型のメスたちは通常あまり好まれない上層の巣箱へ移動し、他のマウスとの交流をできるだけ排除しようとしました。

さらに既存の社会構造の内部でも変化が起こります。これまで強い力を持ち集団を守ってきたオスの力が弱まっていき、巣に外部のマウスが侵入してくる機会が増えました。子育て中のメスは、オスが守ってくれないので、自ら子を守るために攻撃的になっていきました。そして、なんとその攻撃性は守るべき存在の自分の子どもまで向けられたり、育児放棄が発生することが増えていきました。

全体として妊娠率の低下や子どもの成長率の低下が発生し、人口の成長スピードも鈍化していきました。

フェーズD:死の段階(561日目〜)

560日目を境に、人口は減少へと転じます。
この時期の若い個体は、母親から育児放棄された個体も多く、適切な社会行動を教わることなく成長し、求愛・育児・縄張り防衛などの社会行動を学ばないまま成長する個体が多く出現しました。
非社会的なオスは、「食べる・飲む・寝る・毛づくろい」以外の行動を取らず、社会的な営為を一切放棄するようになりました。繁殖行動はおろか、これまであった攻撃性すらも放棄され、傷がなく毛並みが美しいことから彼らは「ビューティフル・ワンズ」と形容されました。
またフェーズC終了から50日以内に生まれたメス148匹のうち、なんと82%が一度も妊娠した経験がありませんでした。
このような繁殖・育児・交流といった社会的行動が一切行われなくなった状態は、「社会の死」であると定義され、920日目に最後の妊娠が確認された以降はすべての個体の物理的な死を待つのみとなり、このユニバース25の実験は終了しました。(何日目で終了したのかについては明確に示す資料は発見できませんでした。実験の趣旨として、社会の動向に主眼を置いているため、社会の終焉が確定した段階でその後の動向は重要ではなかったものと思われます。)

以上がユニバース25実験についてのまとめです。

ユニバース25の実験が示唆する人間社会との関連

物質的な充足や天敵のない安全な環境と、そして引きこもり、育児放棄などの行動は、そのまま現代の人間社会を彷彿とさせるものがあります。そしてユニバース25の実験結果が社会の崩壊であるということは、人間社会も近い将来同じ道を辿るのではないか、という一種の警告としてこの実験がしばしば語られています。
確かにマウスの社会が描いた様相は、現代の人間社会が抱える課題を象徴的に示すものであり、また現代社会の抱える課題の多さからも、人間の社会も近い将来崩壊するのではないかというストーリーは妙に納得できてしまう部分もあります。では本当に人間社会が崩壊するのか、という部分を深掘りして考えてみました。

ユニバース25と現代社会の比較

まず結論から言って、今の状態のまま何もしなければ、人間社会が崩壊するストーリーも十分にあり得るのではないかと思います。
社会課題は複雑化し、増え続ける一方ですし、人口減少の一途で経済も縮小傾向。人々の社会不安も増大していることは明らかです。何もしなければ人間社会も崩壊していくか、現実的にはその前に社会的緊張が高まることにより、国家間対立や衝突、戦争などを招く可能性がある、と言ったところでしょうか。いずれにせよ現在の社会の状況を維持することは難しいでしょう。

しかしそれはあくまでも、「何もしなかった」場合の話です。人間はマウスとは違い、自ら課題を解決できる能力を持っています。
またそもそも人間の社会構造とマウスの社会構造の違いからも考慮するべきポイントがあるでしょう。

①資源の有限性

まず二つの社会の最大の差異として挙げられる点が、資源の有限性です。
ユニバース25の社会において、食糧は無限に与えられるものでした。確かに現代の人間社会においては、食べるものに困って生きていけないというケースは、少なくとも日本においてはあまりないので、条件としては同じように見えます。
しかし当然、私たちの社会で生きていくためには、食べ物だけがあれば生きていけるということではありません。衣食住はもとより、最低限必要なモノがありますし、あるいは電気などのエネルギーも必要とします。そしてそれらの多くは、石油や天然ガス、あるいは鉱物資源等、地球から産出される自然資源に依存しています。これらの資源は有限であり、枯渇が危惧されています。
また、単に資源の枯渇のみならず、それらの過剰使用によってもたらされる地球温暖化、そしてその結果引き起こされる気候変動も深刻な問題です。米や野菜といった農作物が十分に育たなかったり、暑さでニワトリがバテて卵が取れなかったり、農業や畜産分野での直接的な影響も見られるようになっています。
このように限りある資源と向き合わなければいけないという点では、むしろユニバース25よりも社会の持続性という点で現代社会は厳しい状況にありますから、社会を維持するためには必ず向き合わなければならない課題と言えるでしょう。

②社会的役割・関係性

次に注目したい点として、社会的な役割や関係性があります。
ユニバース25の実験では、通常のマウスの社会では見られないような、引きこもりやビューティフル・ワンズの出現、育児放棄や子どもへの暴力などによって次第に社会が崩壊していきました。現代社会においても確かに似たような社会課題は存在しているので、一見すると同じ崩壊の道筋をたどっているようにも思えますが、実際はそうとも言い切れません。
そもそも人間の社会とマウスの社会では社会構造の複雑さが比較になりません。マウスの社会において強さとは子孫を残せるかというほぼ1つの尺度のみで測られますが、人間の社会は価値の多様性が非常に大きく、到底ヒエラルキーに当てはめて考えられるような社会構造になっていません。
例えばヒエラルキーと言うと、お金をどれくらい持っているかという話をイメージしがちです。実際経済格差は重大な社会課題ですから、重要な比較軸であることは確かです。しかしお金の量で人の価値が決まるかと言われたら、決してそうでないことも間違いないでしょう。むしろ、貧乏でも地道に積み上げてきた人が大成して巨万の富を築くこともあれば、社会の変化について行けずに転落する人もいます。無数の要素が人を形作っているのですから、到底比較などし得ないでしょう。

さらに人間は価値観をアップデートすることができます。
近年では多様性(ダイバーシティ)の重要性が広く認識され、その文化も着実に根付いてきています。多様性は、一人ひとりを認め合い、居場所を確保し、役割を果たせるようにするために欠かせません。 社会的な役割を放棄した個体が増えたことが社会の崩壊に繋がったユニバース25の結果を考えれば、居場所や役割を作る多様性の考え方が社会の機能不全を防ぎ、「社会の死」を回避する鍵となると言えるでしょう。

③社会的制度の有無

最後に社会的制度の有無による違いがあるでしょう。
マウスの社会においては当然制度のようなものはありませんから、社会の構造は自然の流れに従うしかありません。生じた格差も広がっていく一方で、結果的にそのことが社会の崩壊に繋がったと言えるでしょう。
一方で人間の社会にも格差は存在しますが、それらの格差の広がりを防ぐための制度が存在することは大きな違いでしょう。弱い立場の人を支援する社会保障制度や、反対に強い立場の人が一方的に権力行使を防ぐ法令や規制などが整えられています。
近年では経済格差の広がりが課題になってきていますし、また制度を作る行政も、人口減少による税収減や課題の複雑化により、制度の持続性には限界が見え始めていることも事実です。その一方で、行政が解決できない課題を民間企業が事業として解決していくことを目指す、共創の考え方が進められるなど、課題解決のための新たなアプローチも模索されています。制度と多様な主体の取り組みで社会をより良くしようと努力できることこそ、制度が存在しなかったユニバース25との決定的な違いと言えるでしょう。

まとめ

以上3つの観点から、ユニバース25と現代社会を比較してきました。
現代社会は環境、社会、経済のあらゆる課題を抱えており、その行き詰まり感から、ユニバース25のセンセーショナルな結果が改めて注目されているのかもしれません。
しかし行き詰まりの社会だからこそ、変わっていかなければいけません。変わっていくためにはあらゆる課題を一つひとつ解決、とまではいかずとも、向き合って少しでも改善していくことが必要です。その課題に向き合う手段こそがサステナビリティやSDGsであり、人間社会を持続可能であるものにするために取り組むべきものではないでしょうか。

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