なぜ、サステナビリティレポートや統合報告書は毎年変わり映えのしないものになってしまうのか?

SDGsの浸透やESG投資の普及など、企業に対するサステナビリティへの要求の高まりを受けて、脱炭素や人権保護の状況などのいわゆるサステナビリティ関連情報の開示を求められる機会が増えています。顧客や社会からのこれらの要求を受けて、サステナビリティレポート(以下、サスレポ)や統合報告書を発行する企業も年々増加傾向にありますが、毎年発行するということもあり、内容が変わり映えしないことに悩みを抱えている企業も多いのではないでしょうか。本稿ではサステナビリティレポートや統合報告書の内容が変わり映えしないものになってしまう原因と、その対策について考えてみたいと思います。

ステークホルダーから求められている情報開示

まずは、サスレポや統合報告書を発行しなければならないそもそもの理由について確認したいと思います。

企業に対してサステナビリティ関連情報の開示が要求され始めたのは1990年代後半で、大型タンカーによる原油流出事故など、自然環境を脅かす事故が頻発したことや、その後の企業の対応をまずさもあり、企業の行動を監視すべきという気運が高まったことが発端でした。1997年には開示基準の草分け的存在であるGRI(Global Reporting Initiative)が発足しています。

このように、サステナビリティ関連情報開示の始まりは企業への「監視」が目的であったことをまずは押さえておく必要があります。開示内容は企業の都合で選ぶものではなく、要求された事柄については、その内容が良くても悪くても、たとえ企業にとって都合の悪い情報であっても開示しなければならないというのが基本であり、要求されそうな情報については、あらかじめ企業内で測定・評価をしていることが前提というわけです。
サスレポや統合報告書は、ともすれば企業のPRやイメージアップが発行の目的とされがちですが、もともとはそういう性質のものではないという点はレポートを作成する上で正しく認識しておかなければならないことです。

次に「開示」の意味について見てみると、ここでいう開示とは、定期的に(最低でも1年に1回以上)内容を明らかに示すことの意味ですので、サステナビリティ関連情報開示とは、「最低でも年に1回以上、企業のサステナビリティに関する情報について内容を明らかにして公に示すこと」と定義できます。さらに開示の際の原則としてGRIでは、正確性・バランス・明瞭性・比較可能性・網羅性・サステナビリティの文脈・適時性・検証可能性の適用を求めており、開示情報のエビデンスとなるデータの提供や、第三者による評価や監査内容なども併せて、透明性を確保して示すことが本来的には求められているということができます。

以上のことを踏まえて、本題であるなぜ変わり映えがしないものになってしまうのかということについて考えてみたいと思います。

サスレポが毎年代わり映えしない原因は社内マネジメントシステムにあり

結論から言ってしまうとサスレポや統合報告書の内容が代わり映えのしないものになる原因は、社内の情報が更新されていないから、あるいは情報開示する前提で活動していないからということに尽きます。

先に述べたようにサスレポは企業が社会や地球環境の持続可能性にどのような影響を与えているか、その影響を小さくするためにどんな努力をしているかを開示するものです。さらに統合報告書はその取り組みが企業の持続的な成長にどのように貢献しているかについて財務指標も併せて示すものです。つまり持続可能な社会や企業経営に向けて目標を設定し、活動を実施し、結果を測定・検証して、次年度への改善につなげるという、いわゆるPDCAの管理サイクルがまわっていないと開示すべき情報が更新されないという事態が起こります。ほとんどの企業で、新規顧客の獲得や製品の改善の取り組みではPDCAを回していると思いますが、サステナビリティの取り組みにもPDCAの管理サイクルを導入している企業がどれぐらいあるでしょうか。サステナビリティの取り組みが毎年改善されて、企業が掲げるビジョンやパーパスの達成と共に、社会や地球環境の改善につながっていることを客観的に示すデータが取れていなければ、サスレポが毎年変わり映えのしない内容になるのも当然のことです。

必要なことはアウトプットの測定とアウトカムの評価

ISOの推進役や監査役などを経験された方はイメージが湧くと思いますが、PDCAと併せて大事なのがアウトカムの把握の仕方です。CO2削減を例にとって考えてみると、確かにCO2は減らさなければならないわけですが、すべての削減分をまともに費用をかけていては徒に利益を失うばかりです。ただ単に減らせば良いということではなく、削減コストを相殺するような新規事業を興すとか、排出権取引で削減コストを取り返すとか、企業ごとに長期にわたる脱炭素の戦略があるはずです。いまやっているCO2の削減活動が、長期の脱炭素戦略に沿ったものになっているか、それは全体の何パーセントぐらい寄与しているのかという指標が「アウトカム」になります。

単にアウトプットを計測して何の解説もなく掲載しても、それではその企業が戦略的に正しい方向に進んでいるのかどうか評価することができません。上記はCO2削減での例ですが、サステナビリティの取り組み全般にわたって、企業の長期戦略に沿った取り組みになっているのか、長期の目標に対してどのぐらい進んでいるのかということを常に測定・評価できる仕組みを整える必要があります。この仕組みが整っていないと、あまり意味のないアウトプットの羅列となり、目的が明確でないためにアウトカムの説明ができず、勢いページを埋めるために計画を繰り返したり、意気込みだけに終始したりということが起こってしまうのです。

発行を担当する部署任せにせず、全社的なマネジメントシステムの見直しを

このようなことが起きる原因としてよく見られるのが、サスレポの制作をガバナンスシステムの問題ではなく、単なるパンフレットの制作のような感覚で捉えている業務分掌です。サスレポや統合報告書の制作を担当している部署には、アウトプットの情報だけでなく、マネジメントシステムの成果に関する情報も集まってきます。各部署から提出されたデータや原稿を見れば、その部署あるいは業務の系統でサステナビリティの推進に関してどんな問題があるのか一目瞭然になる、まさに宝の山です。その情報をサステナビリティの推進部隊がしっかりと分析して各部署にフィードバックし、必要に応じてマネジメントシステムの見直しなどの措置を講じることで、PDCAが回るようになってきます。
サスレポや統合報告書は単なる企業のイメージアップツールではなく、重要な戦略ツールであることをいま一度認識していただき、ガバナンスと併せて情報の流れについて再点検していただくことをお奨めします。

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