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統合報告書の発行は義務か?子会社は?下請けは?

「上場企業と取引があるのですが、統合報告書の発行は義務になりますか?」というようなお問い合わせをいただくことが増えました。発行するとなるとそれなりに手間のかかる統合報告書。プライム上場企業のグループ企業や取引企業が戦々恐々とするのも当然です。統合報告書に代表される、いわゆる非財務情報開示をめぐるこれまでとこれからについてみていきたいと思います。

企業経営においてサステナビリティの重要性が強く認識される現代にあって、特に上場企業においては、非財務の領域におけるサステナビリティの認識や行動について、投資家をはじめとするステークホルダーとの対話がますます重視されるようになってきています。その対話のツールとして統合報告書の有効性が認識されはじめ、多くの企業において活用されている一方で、2021年に改訂された東証のコーポレート・ガバナンス・コード(東証CGC)にサステナビリティ関連情報の開示と、さらに踏み込んだTCFD枠組みに基づく開示がプライム上場企業に要求されたことで、義務的、消極的な開示も増えてきていると感じています。

企業価値レポーティング・ラボによると、2024年時点での統合報告書発行企業数は1,177社で調査開始以来初めて一千社を超えました。そのうち1,090社は上場企業ということですので、発行企業の9割以上が上場企業ということになります。これは東証CGCの補充原則3-1③において「プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。」と記載されたことによるところが大きいと考えられます。

企業における情報開示については様々な法律がありますが、「統合報告書」を発行せよという法律なりそれに準ずる規制があるかというと、「統合報告書」と明記されているものはありません。上場企業については、2023年3月に金融庁から有価証券報告書における「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」、「人的資本、多様性に関する開示」が通達されました。財務情報とサステナビリティ情報を「統合して」報告せよとのことですから、実質的にはこれが上場企業に統合報告書「的」な情報開示を義務付けている法律ということになります。逆にいうと、有価証券報告書の提出義務がない企業には、統合報告書の発行義務もないということになります。これは将来的にも変わることはないと考えられます。

また、温室効果ガスの排出量開示という点では、地球温暖化対策推進法(温対法)において、一定量以上の排出企業に排出量の開示が義務付けられています。温対法対象企業は13,000社程度と言われていますので、こちらの方が上場企業よりも対象範囲が広いということになります。

今後の法規制の動向はどうかというと、現在金融庁がSSBJ開示を2027年から義務化する方向で検討しています。SSBJ開示とは、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)に基づいて日本での開示基準を開発しているサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が策定している開示基準です。まず時価総額3兆円以上の企業から始めて、徐々に広げていく考えのようです。SSBJ開示はまず気候関連から先行してスタートしますので、まっさきにScope1,2,3排出量が法定開示義務になります。

ここで注目すべきなのはScope3も開示対象に入ってくることです。Scope3は「サプライチェーン排出量」と言われ、原材料の製造時に排出された温室効果ガスや、自社で製造した完成品の配送や廃棄などの際に排出された温室効果ガスを算定するカテゴリーになります。(詳しくは、「Scopeとは? 温室効果ガス・CO2排出量について」を参照してください)

SSBJ開示の対象企業がScope3を計算する際には、仕入先や配送業者が自社の製品に関連して排出した温室効果ガスの量を把握する必要がありますので、大企業と取引のある企業には取引先から排出量についての問い合わせが入る場合があり、非上場や中小企業であっても実質的に開示義務が課せられる可能性があります。大企業と取引のある企業では自社の製品別の排出量算定を早めにやっておくと良いと思います。

今後、法律による開示枠組みが整備されてくると、統合報告書の役割は限定的なものになっていくことも考えられます。企業としてはサステナビリティを組み込んだ成長戦略を描くにあたって、ステークホルダーとの戦略的なコミュニケーションツールとしての統合報告書の位置づけをよく見極めて、編集方針を検討していくと良いのではないでしょうか。

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