本を読むことの楽しさを「声」で伝えていけたらって思います。

  • 2015年1月1日
  • 2020年12月25日
  • JO対談

フリーアナウンサー 北村浩子さん

江森:北村さんはFMヨコハマで「books A to Z」というコーナーを10年以上続けてられているほか、「本」や「読書」に関する様々な活動をされていますが、最近ではどんなことをされていますか?

北村:今年度「港南区読書大使」に任命されて港南区の読書活動を推進するという役目をいただいています。平成26年の4月に「横浜市民の読書活動の推進に関する条例」という条例ができたそうで、各区でもそれぞれ独自の取り組みがあって、その一環ということのようです。

江森:北村さんに目をつけるとは港南区もニクイですね。具体的にはどんなことをしているのですか。

北村:大きな仕事としては、港南区内の小学校に行って、6年生のクラスで本についての授業をしたこと、区長さんと対談したことなどです。

江森:小学校ではどんな授業をしたのですか?

北村:私たちが普段何気なく使い分けている言葉の違いにも意味がありますよね。「旅」と「旅行」、「大事」と「大切」、「気分が悪い」と「気持ちが悪い」…。まず、みんなが外国の人に意味の違いを訊かれたらどう答える?と質問して、少し考えてもらいます。そのあと、ではどうして本を書いた人は「旅行」ではなく「旅」という言葉を使ったのか?を考えてもらって、そうやって読むと、また違った楽しさがあるよということを伝える授業をしました。

江森:他にはどんな活動をされていますか。

北村:神奈川県の高校生の図書委員が学校で発行している「図書だより」のコンクールが毎年開催されているのですが、その表彰式で講演をしたら、そこに参加していた高校生からウチの高校の読書会に来て欲しいという話があって、今年はそんな活動も始まりそうです。

江森:今の子供って、そういう場面で要領がいいというか、我々の頃とは違うなあと思いませんか。自分がそうだっただけなのかも知れませんが、もっとしゃべらなかったし、あんなにハキハキしてなかったし…。人付き合いがうまいなあって思います。もちろんいいことなんですけど、ちょっと子供らしくないと感じることもあります。

北村:確かにそういうところはありますね。それはSNSと無関係ではないと思いますし、電話しか通信手段がなかった時代とは明らかに違いますね。家に帰っても常に誰かと「話して」ますし、絵文字とかスタンプとかで会話できるということは、実は私たちよりも多くの言葉を獲得しているということなのかも知れません。でも面と向かって話したらそんなに違わないような気がします。

江森:なるほど、それも人間の「進化」なのかも知れませんね。「神奈川本大賞」っていうのもやってましたよね。

北村:はい、神奈川県内の書店員さんや図書館司書の方々とチームを組んでやりました。100字以内で書いてもらった本の推薦文を県民の投票で選ぶというものです。一次審査はフロンターレの中村憲剛さんや、パラリンピック選手の成田真由美さんなど10名の審査員が10作品を選び、二次審査は主に県内の書店に投票箱を設置して、一般投票で大賞を決めました。

江森:手応えはいかがでしたか。

北村:「◯◯本大賞」というイベントは、全国的に様々な地域で開催されているのですが、神奈川では初めての開催にも関わらず「県民投票」に挑戦したので、運営は手間がかかりましたが、たくさんの方に参加していただけて達成感がありました。次回に向けてだんだんと良くなっていくのではないかと思います。

江森:社会全般において「デジタル化」が進行していく中で、「本」のデジタル化も進んでいます。私自身は「本」を紙で読もうが、デジタルで読もうが、それは読む人の好きにすればいいと思っていますが、「本は紙よりデジタルがいい」という人にいまだ出会ったことがありません。みんなが好きだと言っているにも関わらず、経済的な理由で紙の本が廃刊になり、WEB版や電子版に変わっていってしまいます。印刷会社だからというわけでなく、ひとつの「文化」が、経済的理由によって廃れていってしまうということに、なんとも言えないやるせなさを感じます。

北村:県内にお住まいのノンフィクション作家佐々涼子さんが書いた『紙つなげ!』という日本製紙石巻工場の再生を題材にした本がベストセラーになっていますが、先日出版社の早川書房さんから声をかけていただいて、佐々さんや石巻の本屋 さん、日本製紙の方などが出演されたフォーラムのコーディネーターをする機会 がありました。そこでいかに「紙」というものが情熱をもって作られているか、本当にたくさんの種類があって、レシピがあって、原料の調達に苦労があって…という話を伺いました。彼らの紙に対する情熱とか愛情というものが、本を読むという動機にもつながっていると実感できましたし、登壇者の皆さんの「私たちは紙の本を愛してるんだ」という気持ちが伝わってくるフォーラムでした。

 そもそも『紙つなげ!』を読むまで、文庫本の紙なんてみんな一緒だと思って ましたからね(笑)。角川文庫と講談社文庫では紙が違うなんて、しかも紙を作った人は書店で本を見ただけで、これはどの機械で作った紙かということもわかる。本当に自分の子供のように思っているなんてこと全然知りませんでした。そういうことを知ると、月並みですけど当たり前じゃないということに気付くし、紙の色とか、手触りとか、匂いなんかを感じながら読むことの喜びを、紙の本は与えてくれているんだなあと感じました。

江森:しかし現実には印刷市場の中で最も落ち込みが激しいのは書籍印刷の分野なんですね。そんなに作る側も読む側も愛してくれているものでさえ、無くなっていってしまうというのを、なんとかできないものかなあと…。

北村:私が皆さんに本を薦めるのは、お金を出して本を買って欲しいからなんですね。出版社や本屋さんがお金を得て商売をしていってくれないと、例えば海外でおもしろい本が出版されても、その版権を買って日本で出版することができなくなってしまう。おもしろい本が読めなくなってしまうんです。それは私がこれからもおもしろい本を読みたいという利己的な動機とも重なっていることなんです。消費者ができることって、結局買うことですから。

江森:そうですね。そういう意味でいうと、印刷業界が「本を買ってくれ」という運動はしてないですね。紙を「使ってくれ」ではなく、「買ってくれ」というアピールは大事かもしれないですね。

北村:タダでものごとを享受していると、だんだんやせ細っていってつまらないことになるんですよ。それは本だけでなくなんでも同じ。情報はタダではないから。そこに気付かずに、みんなが「得しちゃった」って思ってると、結局最後には価値のないものしか手に入らなくなるような気がするんです。だからせめて自分の好きなものにはお金を使おうよって言いたいですね。私の場合はそれが本だということですけど。

江森:以前にすごく好きなジャーナリズム系の雑誌があって定期購読していただのですが、ずいぶん前に WEB版になったんですよ。もちろんWEB版の会員になったのですが、何ヵ月かしたら結局読まなくなっちゃったんですよねえ…。

北村:でしょー、読まなくなりますよね。なんでなんだろう?私も世の中の本が全部電子版になったら、手持ちの紙の本ばかり読み返すと思 います。結局そこなんだと思うんですよ。何なんでしょう?

江森:たぶん記事だけじゃなくて、写真とか、見出しとか、ちょっとしたデザイン的な飾りとか、その周りの情報も一緒に見ているからじゃないかな?電子版だとそれがないから、なんかつまらないというか、読む気にならない。

北村:そうそう、それはたぶん人間工学的なもので、ある部分を読んでいるんだけど、他の箇所も視界に入っているとか、残りのページ数を手で感じているとか、そういうこと。そんな「何か」が読書の「楽しさ」を作っているんですよ、きっと。

江森:これからどんなことをしていきたいですか。

北村:普段から文字を読む人は、活字を読むことに慣れているので、本の世界に入るのにもそんなに抵抗はないと思うのですが、活字を読む習慣のない人がちょっと本でも読んでみようと思ってもらえるような活動をしていきたいですね。それには朗読とかラジオとか、音で伝えていく必要があると思うんです。books A to Zを500回聴いてくれた人が、500回目に初めて本を買ってくれたとしたら、それは私にとってすごくうれしいことです。

江森:声が武器の北村さんにはうってつけの活動ですね。私たちの活動も改めて見直す必要がありそうです。

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