正解がないからおもしろいみんな違ってみんないいのが芸術

画家 大野 愛さん

江森:大野さんは早稲田大学文学部を卒業されて画家という異色の経歴の持ち主ですが、なぜ画家を目指したのでしょうか。

大野:私は生まれつき大腸の障害を持って生まれてきて、小さいときは外で遊べなかったんですね。それで家の中や病院でずっと絵を描いていて絵が大好きになりました。その後手術をして障害はなくなったのですが、絵はずっと好きで、中学の頃は美術コースのある高校に行きたかったし、高校のときは美大に行きたかったんです。でも親や学校の先生が将来を心配して反対し、私も当時は反対を押し切る情熱も無かったので早稲田の文学部美術史コースに行って学芸員の資格を取ることにしたんです。

江森:高校は横浜緑ケ丘でしたよね。それだけ勉強のできる娘が美大に行くと言ったら、親は反対するでしょうね。よくわかります(笑)

大野:でも、学芸員の勉強をする中で、他の人の絵の展示をしてたら自分が描きたくなってしまったんですよね。絵の方は趣味で続けようと思っていたので、大学2年から個人的な絵画教室には通っていたんですけど、ある日先生に「画家になるにはどうしたらいいんですか?」と相談したら「描いて売ったら画家だよ」と言われて、「確かに!」と思ったのが画家を目指したきっかけです(笑)。そこからもうどうしても描きたくなってしまって、4年の夏休みに「画家になります!」と宣言して手探りで始めました。もちろん画家の先輩なんていないし、個展の開き方もわからなければ、値段の付け方もわからないし、ギャラリーカフェに作品を持ち込んで、そこのオーナーさんに個展の開き方を教えてもらってというように体当たりでやってきましたね。

江森:画廊には所属しているのですか?

大野:いえ、所属はしていません。よく画家の登竜門などと言われる○○展とか○○会とかというのは、学歴がものをいう世界で、私のようなアウトローはたとえ何十万円という年会費を払い続けたとしても、一生のうちに佳作が1回とれたらいい方なので、そこにいる意味もないんですね。であればまったく違うルートでやっていこうということで、完全フリーでやっています。

江森:これだけ時代が変わっていると当然絵の世界も変わってきてはいるんでしょうけど、それにしても自分で新規開拓していくというのは大変そうですね。

大野:そうですね。江森先輩のおっしゃる通り昔絵をたくさん買ってくれた方がご高齢になったり亡くなったりして、絵自体あまり売れなくなってきているので、既存のルートでもなかなか厳しいです。そんな中でも、このホテルニューグランドさんとか、横浜そごうさんとか、今まで絵を買うところではなかった場所で扱っていただけるようになってきているのはうれしいですね。

江森:ここでは飾っているのではなく売っているの?

大野:そうなんです。1階の廊下に1枚だけ展示してあって売っていただいています。そごうさんも普通絵画は美術部で扱うんですけど、私の絵はインテリア部で扱っていただいていますので、どちらも絵なんてあんまり興味がないという方にも、見ていただける機会ができています。

江森:そういえば、そごうでライブペインティングのイベントやってたよね?

大野:年2回のペースで個展をやらせていただいていますが、昨年12月のクリスマスイベントのときは音楽にあわせてライブで描くというパフォーマンスをしました。インテリア部の催しなので、そごうの6階のエスカレーターを上がってすぐのところに、いきなり作品が置いてあって、しかも私がずっと絵を描いているという「なにこれ?」みたいな状態になっています(笑)。そうやってこちらから外に出ていくことで新しいつながりが生まれてくると思いますね。私自身も、知らない人の個展はすごく入りにくいですし、ホテルとかデパートとか普通ここに置いてないでしょというところに置くことで、絵を買いにきたのではない人にも見てもらうことができますからね。ギャラリーにこもっていたのでは、なかなか難しい時代になっていると思います。

江森:でも、自分で描いたのを自分で売るのって難しいでしょ?

大野:難しいですね〜。グループ展とかで他の作家さんの作品だったら結構私売れるんですよ。ここがいいんですよ!とか言って。でも私の絵のここがいいんです!ってなかなか言えないです(笑)

江森:ですよね。よくフリーのデザイナーから同じような話を聞くことがありますが、やっぱりマネジメントしてくれる人なり会社なりがあった方がいいんでしょうね。芸能事務所みたいな。

大野:欧米ではアーティストが所属する事務所がたくさんあって、作家が作品作りに専念できる環境が整っているんですけど、日本にはほとんどないんですよね。以前は画廊がその役目を担っていたんでしょうけど…。以前調べたことがあるのですが、日本のアート市場は世界全体の5%もないんですよ。しかもその多くは古美術やすでに亡くなられた方の作品で、現役の作家の作品なんてほんとに少ししか出回っていないので、マネジメントの仕事も成立しにくいのではないでしょうか。

江森:日本がこの先どんな産業で世界と戦っていくのかということを考えたとき、製造業もダメ、金融もダメ、既存産業がダメダメな中で、日本的美意識というのは、唯一我々に残された世界に通用する価値ではないかと思うんですよね。もっとアートが生活のいろいろなところに入っていくべきだと思いますね。

大野:そうですね。〝ザ・美術〟みたいになると、どうしてもほとんどの人が私には関係ないとなってしまうので、生活の中に幅広く浸透していくように活動していきたいですね。

江森:コロナ前は仮装でイベントなんかもやってましたよね?

大野:やってましたね、海賊のかっこして(笑)。あれは子供向けのワークショップで、幼なじみのフォトグラファーと一緒に自分だけの海賊船を作るというテーマで始めたんですが、あるとき千葉のハロウィンイベントに呼ばれて、仮装してきてくれということだったので、海賊の仮装をしたら、子供ウケが桁違いで(笑)。それ以来ずっと海賊でやってました。今年はまったくできないですねえ…

江森:子供の反応はどうですか?

大野:もともとは私たちの師匠のような画家さんが子供向けのワークショップをやっていて、それを手伝っていたんですね。そこでいまの子供たちが、小さい頃から既成概念の枠にはめられてしまって自由に発想ができない現実を目の当たりにして、少しでも創作活動の楽しさを知ってもらえればと始めたことなんです。子供に絵を描かせると「ここは何色にすればいいんですか?」ってきいてくるんですよ。「絵なんだから何だっていいんだよ」と言ってもわからないみたいで…。また例えば太陽を青く描いたりすると、保護者の方が「違うでしょ!」と言ってしまったりということもありますね。

江森:正解を求めたがるといういまの風潮ですね。僕たちが子供の頃はそんなことなかったと思うんだけど、なんでなんでしょうね?

大野:芸術って正解がないからおもしろいと思うんですよね。誰が一番とかという順序も、商業的にはあったとしても、本来は順序をつけるべきものではないんですけど、どうしても〇〇賞とかつけたがるし、もっともそれを取らないと売れないからみんなが目指すのも当たり前なんですけど、みんな違ってみんないいというのが芸術のいいところなのに、みんながいいと言わないから売れないというようなことになるのは、もったいないなあと感じます。

江森:意外と古いというか、ガチガチな世界なんですね、芸術界も。

大野:それを壊そうという動きも若い世代では始まっていて、学歴や過去の受賞歴を見ずに評価するという賞もできてきてはいますが、お客さんの方がまだ対応できていないというのが現状ですね。それを変えるのはすごく長い時間が必要なんだと思います。

江森:早稲田出身の大野さんが学歴社会を壊すというのは痛快ですね。日本人の美意識を世界に広げていくという意味でも、これまでとはまったく違うアートの世界を作って行って欲しいです。

大野:買ってもらう前にまずは知ってもらわないと存在していないのと同じことなので、絵を買うつもりなんて全然ない人にも、こんな絵があるんだ、こんな画家がいるんだって知ってもらうことが大事なんじゃないかと思っています。

江森:今後はどんな活動をされる予定ですか。

大野:ギャラリー以外の場所での展示を増やしていきたいというのはもちろんですが、グッズとかパッケージなどへの二次活用も積極的にやっていきたいですね。

 コロナで飲食店が大変だったときに、和食屋さんのテイクアウトのお弁当の包み紙に私の絵を使ってもらったんですけど、そういうイラスト的に活用していく展開も楽しいなと思っています。

ホテルニューグランド本館1927年(昭和2年)の開業時に建設され、現在も当時と変わらぬ姿で使われ続ける渡辺仁設計の歴史的建造物
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